構造設計を取り巻く技術や設計基準は、日本国内だけでなく世界各国で日々変化しています。
構造設計.comでは、海外の構造設計に関するニュースや研究、技術動向の中から、日本の構造設計者にとって興味深いものを定期的に紹介しています。
今回は、2026年8月10日から8月22日までに海外で報道・公開された情報の中から、特に注目したい4つのテーマを取り上げます。
今週は、大きな被害をもたらしたコロンビア地震、比較的規模が小さかったにもかかわらず建物被害が発生したスペイン・グラナダの地震に加え、AIによる構造図面からのモデル生成、さらに大型構造物への免震技術の応用という、構造設計者にとって興味深いニュースがありました。
1.コロンビアでM7.4の地震―多数の建物が倒壊
2026年8月10日、南米コロンビア西部でマグニチュード7.4の大きな地震が発生しました。
ロイターによると、震源深さは約107kmで、コロンビアでは今世紀最大規模の地震となりました。
カリ、ペレイラ、マニサレスなど複数の都市で建物が倒壊し、病院やインフラにも被害が発生しました。また、被災地域の複数の空港では、構造安全性を確認するため運用が一時停止されています。
地震発生直後の報道では100人を超える死亡者が確認され、建物の瓦礫の下に多数の人が取り残されました。
興味深いのは、この地震が約107kmという比較的深い位置で発生したにもかかわらず、大きな建物被害が生じたことです。
地震による構造物への影響は、単純にマグニチュードだけで決まるものではありません。
震源深さ、断層形式、地盤条件、建物の固有周期、既存建物の耐震性能など、多くの要因によって実際の応答は変化します。
今回の地震についても、専門家からは地震の規模、内陸部で発生したこと、横ずれ断層型であったことなどが、人口の集中する谷部で大きな揺れにつながった可能性が指摘されています。

構造設計者として注目したいポイント
今回の被害から改めて感じるのは、「地震の規模」と「建物被害」は必ずしも単純な比例関係ではないということです。
構造設計では設計用地震力を設定して部材の安全性を検討しますが、実際の地震では、
- 地盤による地震動の増幅
- 建物の固有周期
- 建設年代や適用された耐震基準
- 柱・梁・耐力壁などの配置
- 接合部の性能
- 非構造部材の脱落
などが複雑に影響します。
特に既存建築物が多数存在する都市では、新築建物の耐震基準だけでなく、既存建築ストックの耐震性能をどのように評価・改善していくかが大きな課題になります。
原典: Reuters「More than 100 killed after strongest quake this century hits western Colombia」
2.スペイン・グラナダではM5.0でも建物被害
8月15日には、スペイン南部グラナダ近郊でも地震が発生しました。
こちらはコロンビア地震よりかなり小さく、マグニチュード5.0でした。
ロイターによると、住宅や自動車などに被害が生じ、損傷した建物から住民が救助される事例もありました。一方で、重大な構造被害や人的被害は報告されていません。
また、グラナダを代表する歴史的建造物であるアルハンブラ宮殿には被害が確認されなかったと報じられています。
このニュースも構造設計者にとって興味深いものです。
M5クラスの地震は、日本でも決して珍しい規模ではありません。
しかし、建物被害の程度は地震規模だけでは判断できず、震源距離、地盤、建物の構造形式や建設年代などによって大きく変わります。
日本の構造設計との関係
日本では大地震に対する構造安全性に注目が集まりがちですが、中小地震における非構造部材や仕上材の損傷についても考える必要があります。
構造躯体が安全であっても、
外壁材
天井材
ガラス
設備機器
家具
屋根材
などが損傷・落下すれば、建物利用者に危険が生じる可能性があります。
「倒壊しない」という構造安全性と、「地震後も安全に使用できる」という性能は同じではありません。
今回のグラナダ地震は、比較的小さな地震に対する建築物の損傷制御についても考えさせられる事例です。
原典: Reuters「Earthquake hits Spanish city of Granada, buildings and cars damaged」
3.構造伏図PDFから解析モデルをAIで生成する研究
今回、個人的に特に興味深かったのが、8月18日に公開された構造設計とAIに関する研究です。
論文タイトルは、
「Structural Plan-to-Model Conversion with Deterministic Geometry and Guarded Agentic Vision-Language Refinement」
です。
研究では、構造伏図などのPDF図面から柱・梁・壁・ブレース・開口などを認識し、編集可能な構造モデルの下書きを生成するシステムが提案されています。
従来、このような作業では図面を見ながら構造解析ソフトへ部材を入力する必要があり、構造設計業務の中でも比較的多くの時間を要します。
今回提案されたシステムでは、まず決定論的な処理によって、
図形
寸法
スケール
部材候補
などを抽出します。
その後、Vision-Language Modelを利用したAIエージェントが、抽出結果について補正候補を提案します。
重要なのは、AIにすべてを自由に判断させているわけではないという点です。
AIによる変更には制約が設けられ、候補の妥当性確認や変更レベルでのレビューなどを組み合わせる仕組みになっています。
100枚のテスト用図面を用いた評価では、柱・梁・壁・ブレース・開口などについて高い認識精度が報告されています。
ただし、研究者自身も、独立して作成された実際の図面やラスター図面、解析モデルとしての接続性、解析ソルバーによる検証などについては今後の課題としています。
構造設計実務への影響
これは日本の構造設計業務にも非常に関係する研究だと思います。
現在、構造設計では、
CAD・BIM → 構造解析モデル
あるいは逆に、
構造解析モデル → 構造図
というデータ連携が大きなテーマになっています。
ここにAIによる図面認識が加われば、将来的には、
「構造伏図PDFを読み込む」
↓
「柱・梁・壁を自動認識」
↓
「構造解析モデルの原型を生成」
↓
「構造設計者が確認・修正」
というワークフローが一般化する可能性があります。
特に重要なのは、AIに構造設計そのものを任せるというより、構造設計者が判断する前段階の入力作業を自動化するという方向です。
構造設計では、一つの入力ミスが解析結果全体に影響する可能性があります。
そのため、
AIによる自動化+構造設計者によるEngineering Judgment(工学的判断)
という組み合わせが、現実的な方向ではないでしょうか。

4.23mの大型望遠鏡をチリの強震地域へ―「免震」で既存設計を活用
8月15日に公開された研究では、少し変わった構造物への免震技術の適用が紹介されています。
対象となったのは、次世代チェレンコフ望遠鏡群に使用される**直径23mのLarge-Sized Telescope(LST)**です。
既存のLST-1はスペイン領ラ・パルマ島に建設されており、構造重量は約110t。
巨大な構造物でありながら、観測対象へ素早く向きを変えるため、180度を約18秒で回転できる非常に軽量な構造となっています。
さらに200km/hを超える強風などの厳しい環境条件にも耐える設計とされています。
問題となったのが、この設計を南米チリへ展開することでした。
チリは世界でも有数の地震国であり、既存設計のままではより大きな地震荷重への対応が必要になります。
そこで研究チームが検討しているのが、望遠鏡構造そのものを大幅に補強するのではなく、基部へ免震システムを導入する方法です。
有限要素解析などによる検討では、免震によって地震荷重と動的増幅を大きく低減し、既存のLST-1構造を比較的小さな変更でチリへ適用できる可能性が示されています。
構造設計者として面白いところ
この考え方は建築構造でも非常に参考になります。
地震荷重が増えた場合、
柱を大きくする
梁を大きくする
ブレースを増やす
接合部を補強する
という方法がまず考えられます。
しかし、それによって構造重量が増えれば、地震時慣性力も増加します。
特に今回の望遠鏡のように、**「軽量であること自体が構造物の重要な性能」**となっている場合、単純な部材補強は合理的とは限りません。
そこで、
構造体を強くするのではなく、構造体へ入力される地震力そのものを小さくする
という免震の考え方が有効になります。
これは建築物の免震設計と基本的に同じ考え方です。
既存の優れた構造システムをできるだけ変更せず、境界条件側で地震入力をコントロールするという設計思想は、構造設計者として非常に興味深い事例だと思います。

今週のまとめ
2026年8月10日から22日までの海外情報を見ると、今週は特に**「実際の地震被害」と「構造設計技術の進化」**という二つの側面が印象的でした。
コロンビアではM7.4の地震によって多数の建物が倒壊する一方、スペイン・グラナダではM5.0でも建物や外装等に被害が発生しました。
この二つの地震からも、建物被害は単純にマグニチュードだけでは評価できないことが分かります。
一方、技術面では、AIによって構造伏図から解析モデルを作成する研究が進み、従来構造設計者が手作業で行ってきた業務の一部が自動化される可能性が見えてきました。
さらに、大型望遠鏡の事例では、構造体そのものを補強するのではなく、免震によって入力地震力を低減することで既存構造システムを活用するという合理的な考え方が示されています。
今回の4つのニュースに共通しているのは、
「構造物を強くすることだけが構造設計ではない」
ということではないでしょうか。
地震動を理解する。
建物の損傷をコントロールする。
入力地震力を低減する。
AIによって単純作業を自動化し、人間は工学的判断へ集中する。
構造設計者に求められる役割は、今後さらに広がっていくように感じます。
海外でどのような地震被害が発生し、どのような技術によってそれを解決しようとしているのか。
今後も海外の構造設計に関する動向を定期的に紹介していきたいと思います。
※本記事は2026年8月10日~22日に海外の報道機関・研究機関等から公開された情報をもとに、構造設計.com編集部が日本の構造設計実務との関係を含めて要約・編集したものです。各ニュースの詳細については、本文中に記載した原典をご確認ください。

