耐震診断とは、想定される地震に対する建物の安全性や、発生する被害の程度を調査することをいいます。
地震には最初に起こる突き上げるような縦の衝撃と、その後に襲ってくる横の衝撃がありますが、大きな横揺れは建物を変形させる原因となるため、耐震診断では特に横に働く力に対する建物の耐久力を調査します。
建物の耐震診断で求められる重要な指標として「is値」があります。 is値は建物の耐震性能を表すための指標で、is値が0.6以上あれば地震が来ても大丈夫と一般的には言われています。
しかし、is値が0.6以上あれば、どんな建物でも必ず安全というわけではありません。
建物の規模や用途により安全と認められるis値の基準が高く設定される場合があり、また耐震診断で用いる診断法の種類によって求められる数値の確実性が異なるためです。診断法によってはis値以外の指標も安全性の評価において使用される場合があります。
よって建物の安全性を正しく把握するには、is値をはじめとした耐震性能を表す指標や、安全性の判定方法を正しく理解することが必要となります。
そこで本記事では、耐震診断の結果から建物の安全性を正しく評価できるように、上記について詳しく解説していきます。
判定方法
Is値とは鉄筋コンクリート造建造物、鉄骨造建造物の耐震指標として扱われ、木造はIw値という耐震指標を用います。
建物が鉄筋コンクリート造(rc造)の場合、鉄骨造(s造)の場合、木造の場合それぞれによって判定方法が異なります。
鉄筋コンクリート造および鉄骨造の建物で使用する耐震診断法には、第1次診断法、第2次診断法、第3次診断法があり、それぞれに特徴があります。
第1次診断法は、建物の耐震性能を簡易的に調査する診断法です。
第2次診断法は、柱・壁の耐力や靭性などを考慮して判定する方法で、第1次診断法より算定方法が複雑になりますが、より正確な結果が得られます。 第3次診断法は、柱・梁・壁の耐力や靭性などを考慮して判定する方法で、もっとも正確な結果が得られる診断法です。
一方、木造住宅で使用する耐震診断法には、簡易診断法(誰にでもできるわが家の耐震診断)、一般診断法、精密診断法があります。
簡易診断法は、専門知識のない人でも行える診断法で、簡単なチェックシートを用いて耐震性を確認する方法です。
一般診断法は、建築の知識のある人が行う比較的簡易な診断法で、主な部位に対する平均的な評価を行います。
精密診断法は、もっとも正確な診断法で、耐震診断士が詳細な情報をもとにして行います。
3種類の診断法のどれを用いるべきか、耐震診断の対象となる建物の環境や診断精度、費用などを考慮して選定しなければなりません。
またis値やIw値が持つ意味を理解するために、診断法による計算方法の違いや、基準となる数値に関して把握しておく必要があります。
鉄筋コンクリート造(rc造)の場合
初めに鉄筋コンクリート造建造物の耐震診断の判定方法や、各指標の算定方法を解説していきます。
is値とは
is値とは、構造体の耐震性能を表す指標のことで、「構造耐震指標」と呼ばれています。
鉄筋コンクリート造および鉄骨造の建物の耐震指標であり、数値が大きいほど耐震性の高い建物と認められています。
is値は以下の計算によって求められます。
is = E0×SD×T
E0:保有性能基本指標
SD:形状指標
T:経年指標
上式に示す通り、is値を求めるためには、E0・SD・Tの3つの指標を先に算出する必要があります。
したがって、これら3つの指標のもつ意味合いや計算方法に関しても理解しておかなければなりません。
なお、第1~3次診断法のうち、どの診断法を用いるかによって、E0・SD・Tの数値が異なってきますので注意が必要です。
以下の項で各指標の算出方法を説明しますので、しっかりと理解するようにしてください。
E0の算出方法
保有性能基本指標(E0)とは、建物が保有している耐震性能を表す指標で、Is 値の基準となる数値です。
E0な計算方法は以下の通りです。
EO = C×F
C:強度指標
F:靭性指標
強度指標(C)とは、建物の地震に対する強さの度合いを表わすものをいい、靭性指標(F)とは、地震などにより建物に強い揺れが伝わっても、エネルギーを吸収して倒壊を防ぐ力のことをいいます。
CおよびFの指標を算定する方法には、第1次診断法、第2次診断法、第3次診断法の3種類の診断法から選定します。
どの診断法を用いるかは、耐震診断の対象となる建物の環境や診断精度、費用などを考慮する必要があります。
各診断法の基本となる考え方は以下の通りです。
第1次診断法 | 主として強度抵抗型となる壁式あるいは比較的耐震壁が多く配されたフレーム構造の耐震性能を簡略的に評価することを目的として開発された診断手法である。性能評価の基本である柱・壁の強度は、そのコンクリート強度と断面積から略算的に求めるため、鉄筋の情報は不要である。よって計算は他の診断次数と比較して最も簡単である。 |
第2次診断法 | 梁よりも柱・壁などの鉛直部材の破壊が先行し、これにより構造物の耐震性能が支配される建物(柱崩壊型建物)の耐震性能を簡略的に評価することを目的として開発された診断手法である。この診断法では想定建物の構造特性から梁・スラブは剛強と仮定し計算では考慮しないが、柱・壁の強度には鉄筋の影響も考慮し、部材の強度と靭性を評価することにより、第1次診断法よりも計算精度の改善を図っている。 |
第3次診断法 | 梁の破壊が柱・壁に先行することにより耐震性能が支配される建物(梁崩壊型建物)や耐震壁の回転(浮き上がり)が支配的な建物の耐震性能を簡略的に評価することを目的として開発された診断手法である。この診断法ではフレーム解析を基本とするとともに、その計算結果はモデル化の良否の影響を大きく受ける場合があるため、妥当な診断結果を得るためには高度な知識と慎重な判断を要する。適切なモデル化と判断を伴えば第2次診断法よりも高い精度で判定が可能である。 |
SD指標の算出方法
形状指標(SD)とは、建物の平面、立面形状または剛性の平面、立面分布などを加味して、保有性能基本指標(E0)を補正するための指標です。第1次診断においては、整形性、辺長比、くびれ、エキスパンションジョイントの有無、吹き抜けの大きさと偏在性、地下室の有無、層高の均等性、ピロティの有無によって評価を行います。第2次診断においては第1次診断の項目に加え、重心と剛心のずれ(偏心率)、上下層の剛性比(剛性率)を評価に加えます。
T指標の算出方法
経年指標(T)は、構造体に生じているひび割れ、変形、老朽化などの構造的欠陥が、建物の耐久性に及ぼす影響を評価するための指標です。
原則として、1次調査、2次調査、精密調査の3段階の調査結果を用いて、第1次診断法、第2次診断法、第3次診断法による耐震指標(is値)算定のための数値を算出します。
各診断法別に利用するTの求め方を以下にまとめます。
第1次診断法で用いる経年指標(T)は、建物の1次調査結果を基準とします。
具体的には、以下の6項目の算定表を作成し、各項目のT値(0.7~1.0の範囲)を求め、もっとも小さい数値を採用するものとします。
・建物の変形
・壁・柱のひび割れ
・火災経験
・用途
・建築年数
・仕上状態
第2次診断法では、2次調査項目の結果をもとに、以下の式によって計算します。
T = (T1+T2+T3・・・・+TN)/N
TN = (1-P1)×(1-P2)
TN:調査階の経年指標
N:調査した階の数
P1:調査階における構造および構造ひび割れ、変形の減点数集計値
ただし、調査する必要のない場合は0とすることができる
P2:調査階における変質、老朽化の減点数集計値
ただし、調査する必要のない場合は0とすることができる
第3次診断法では、基本的に2次診断法に用いた経年指標を使用します。
ただし、精密調査の結果を利用して強度指数と靭性指標を算定する場合、算定された経年指数を適時修正ができます。
建物の調査
建物の調査は、前述のE0・SD・Tの3つの指標を算定する際に必要となる建物の性質を確認するために、診断次数に応じて、予備調査と現地調査によって行います。
予備調査
予備調査は、調査の対象となる建物の概要を把握し、本基準の適用の可否、現地調査で必要となる情報及び資料を収集することを目的として行います。調査項目は
・建物の名称、所在地、用途、設計者、施工者、工事監理者、竣工年、設計年の把握
・設計図書の有無
・建築物の履歴(使用履歴、増改築の有無、経年劣化や被災の有無)
・現地調査の可否
になります。
現地調査
現地調査は、1次調査、2次調査、精密調査の3種類の方法があります。
それぞれの調査方法の特徴などは以下の通りです。
1次調査 | 第1次診断法による構造耐震指標の算定で必要となる以下の項目を調査する。 ・構造部材の耐力を算定するために必要な材料強度、断面寸法 ・経年指標に反映する建物の変形、コンクリートのひび割れ ・形状指標に反映する建物の形状 |
2次調査 | 第2次診断法または第3次診断法による構造耐震指標の算定で必要となる以下の項目を調査する。 ・構造部材の耐力を算定するために必要な材料強度、断面寸法 ・構造亀裂および変形の発生程度とその範囲 ・変質、老朽化の程度とその範囲 2次調査は、調査担当者が現地建物を原則として仕上材の上から目視または簡単な寸法実測により調査する。ただし、きれつ状況、老朽化の程度によっては、必要に応じて仕上材の一部を取り外した調査を行う。 |
精密調査 | 精度の高い診断や補強設計を行う際、さらに正確に建物状況を把握する場合において、2次調査に加えて以下の項目を調査する。 ・コンクリートの材料強度、ヤング係数 ・配筋状態と鉄筋断面、鉄筋の降伏点強度の確認 ・施工状態、亀裂、欠損状況を考慮した部材性能の再評価 ・コンクリート中性化、老朽化、鉄筋サビを考慮した材料強度の再評価 精密調査は、建物構造体からの供試体採取、仕上材の一部除去、コンクリートの局部的なはつり等によって、柱、梁、壁部材について実施する |
iso値とは
次にiso値について説明します。
iso値とは想定した地震による振動に対して、建物が所要の耐震性能を安全であるために必要とされる構造耐震指標値です。
iso値は以下の計算によって求められます。
iso値 = Es×Z×G×U
Es:耐震判定基本指標
Z:地域係数
G:地盤指標
U:用途指標
is値と同様に各指標値を求め、掛け合わせることで算出します。
計算の考え方として、Esが基礎となる指標で、その他は補正値という意味合いであることを覚えておきましょう。
以下に各指標値Es・Z・G・Uの算定方法を説明していきます。
Esの算出方法
耐震判定基本指標(Es)とは、建物に要求される基本的な耐震性能を表す指標のことです。
Esの値は各診断法によって異なりますが、以下の値を基準としています。
・1次診断=0.8
・2次診断および3次診断=0.6
Zの算出方法
地域係数(Z)は、地震活動度や地震動強さを考慮するための数値で、Esの補正係数になります。
Zは一般的に建築基準法の施行令第88条第1項で規定され、国土交通省告示により定められた地域係数を用いて計算します。
全国の地域を1.0~0.7の範囲内で定めており、地震が多い地域であるほど数値が高く、少ない地域は小さく設定されています。
(たとえば、東京の場合1.0、沖縄の場合0.7など)。
Gの算出方法
地盤指標(G)は、表層地盤の増幅特性、地形効果、地盤と建物の相互作用を考慮するための数値で、Esの補正係数になります。表層地盤の増幅特性についてはマイクロゾーニングが行われている地域においては、この値を参考にすることができます。
地形効果については静岡県の場合以下の数値が定められています。
一般 | がけ地 | 地層の不整合性 | 局部的高台 |
1.0 | 1.25 | 1.25 | 1.25 |
出典:「2001年改訂版 既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断基準同解説」P185
(監修:国土交通省住宅局建築指導課
発行:一般財団法人 日本建築防災協会 国土交通大臣指定耐震改修支援センター)
官庁施設の場合以下の数値が定められています。
一般 | がけ地 | 地層の不整合性 | 局部的高台 |
1.0 | 1.10 | 1.10 | 1.10 |
出典:「平成8年版 官庁施設の総合耐震診断・改修基準及び同解説」P15
(監修:建設大臣官房官庁営繕部監修
発行:財団法人 建築保全センター)
Uの算出方法
用途指標(U)は、建物の用途などを考慮した数値で、Esの補正係数になります。
Uの値は構造体によってⅠ類、Ⅱ類、Ⅲ類の3種類に分けられ、Ⅰ類に近いほど高い数値となっています。
具体的な数値は以下の通りです。
・Ⅰ類=1.5
・Ⅱ類=1.25
・Ⅲ類=1.0
数値が高いほど重要度の高い建物に該当することを意味しています。
たとえばⅠ類に該当するのは「公共の避難施設、津波避難施設」、Ⅱ類は「公共の学校施設」、Ⅲ類は「民間の建物」などです。
判定方法
耐震診断で用いる判定方法は、1次診断法、2次診断法、3次診断法のうちどの方法を選択しても構いません。
しかし冒頭で說明した通り、耐震診断を行う建物の特徴、診断精度や費用などを考慮して選定する必要があります。
構造体に対する安全性の判定は、以下の式で決まります。
・is値 ≧ iso値
1次診断法による判定方法
初めに1次診断法による判定方法を說明します。
1次診断法はもっとも簡易的な診断法となります。
構造耐震指標(is)および構造耐震判定指標(iso)、どちらの場合においても基準となる指標はE0です。
1次診断法では、is値 ≧ iso値となれば、安全であると判定されます。
2次診断法による判定方法
次に2次診断法による判定方法を說明します。
2次診断法は柱・壁の強度と靱性を考慮して耐震性能を算出する方法で、1次診断法よりも信頼性が高く、公共の建物などでよく使用される診断法です。
2次診断法においても、構造耐震指標(is)および構造耐震判定指標(iso)を求めるうえで基準となる指標はE0です。
2次診断法では、is値やiso値の他に、建物の保有水平耐力(建物が地震による水平方向の力に対して対応する強さ)に係る指標値としてq値があります。
・is値 ≧ iso値
・q値≧1.0
の両方を満足すれば、安全であると判定されます。
q値の算出方法
q値とは、建物の保有水平耐力のことで、2次診断法ではis値やiso値と共に、耐震性能の指標として使用されます。
具体的な計算方法は以下の通りです。
q = CTU×SD/(0.3×Z×G×U)
CTU:終局時累積強度指標
SD:形状指標
Z:地域係数
G:地盤指標
U:用途指標
CTUの算出方法
終局時累積強度指標(CTU)とは、構造物の終局限界における累積強度指標のことです。
算出方法は非常に専門性が高い内容ですのでここでの記載は省略します。
3次診断法による判定方法
3次診断法の判定方法は2次診断法と同様です。
ただし、3次診断法の場合、前述したようにE0を求める際に、2次診断法で用いた柱・壁の断面積に加え、梁の影響も考慮するため、より高度な計算が必要です。
鉄骨造(s造)の場合
次に鉄骨造の場合について解説していきます。
Isi値とは
Isi値とは、建物の靭性と強度を総合的にまとめた指標です。
0.6が法基準を満たす数値となります。
Isi値の計算方法は以下の通りです。
Isi = E0i/Fesi×Z×Rt
E0i:i層の耐震性能を表す指標
Fesi:i層の剛性率および偏心率によって決まる係数
Z:地域係数
Rt:振動特性係数
E0iの算出方法
E0iはi層の耐震性能を表す指標で、Isi値を算定する際の基準となる数値です。
E0iの計算方法は以下の通りです。
E0i = Qui×Fi/Wi×Ai
Qui:i層の保有水平耐力
Fi:部材・接合部の塑性変形性能から層、方向別に決まる靭性指標
Wi:i層が支える質量
Ai:層せん断力の高さ方向分布で、建築基準法施工令に準ずる
Fiの算出方法
Fiは部材・接合部の塑性変形性能から層、方向別に決まる靭性指標です。
・柱梁接合部
・柱、梁部材
・パネルゾーン
・柱脚
・ブレース
・梁、柱のボルト継手
それそれの構造に応じた靭性指標が定められており、当該階の靭性指標Fiはこれらの数値を総合的に判断して決定致します。
Fesiの算出方法
Fesi はi層の剛性率および偏心率によって決まる係数です。
計算方法は以下の通りです。
Fesi = Fsi×Fei
Fsi:i層の層間変形角から求めた剛性率によって決まる係数
Fei:i層の耐力および質量分布の平面上の非対称性が大きい場合の偏心率によって決まる係数
Zの算出方法
地域係数(Z)は、地震活動度や地震動強さを考慮するための数値です。
Zは一般的に建築基準法の施行令第88条第1項で規定され、国土交通省告示により定められた地域係数を用いて計算します。
全国の地域を1.0~0.7の範囲内で定めており、地震が多い地域であるほど数値が高く、少ない地域は小さく設定されています。
(たとえば、東京の場合1.0、沖縄の場合0.7など)
こちらは鉄筋コンクリート造の場合と算出方法は同じになります。
Rtの算出方法
Rtは振動特性係数で、地盤と建物の特性の組み合わせで決まる数値です。
Rtは下表の式により算定します。
T<Tcの場合 | Rt=1 |
Tc≦T<2Tの場合 | Rt=1-0.2(T/Tc-1)² |
2Tc≦Tの場合 | Rt=1.6Tc/T |
Tcは地盤の区分により数値が変化します。
具体的には、以下の表から選択します。
第1種地盤 | 岩盤、硬質砂礫層などで構成される功績層 | 0.4 |
第2種地盤 | 第1種、第3種以外 | 0.6 |
第3種地盤 | 腐植土、泥土等で構成される功績層 | 0.8 |
簡単にいうと、第1種地盤は良い地盤、第3種地盤は軟弱地盤、第2種地盤はそれ以外の地盤という区分けになっています。
またTの値は以下の計算式で求めます。
T = h(0.02+0.01α)
このうち、Tは固有周期、hは建物の高さ、αは建物の高さに対して、鉄骨造である階の高さの合計のhに対する比です。
iso値とは
Iso値とは、構造耐震判定指標のことです。
想定した地震による振動に対して、建物が所要の耐震性能を安全であるために必要とされます。
iso値を求める計算方法は、以下の通りです。
iso = Es×Z×G×U
Es:耐震判定基本指標
Z:地域係数
G:地盤指標
U:用途指標
各係数および指標の求め方について、以下に解説していきます。
Esの算出方法
耐震判定基本指標(Es)とは、建物に要求される基本的な耐震性能を表す指標のことです。
鉄骨造におけるEsの値は、特に指定がなければ0.6としています。
ただし、建物の用途や重要度によって、数値を大きく定めているケースがあります。
たとえば、学校の体育館などは、「公立学校施設に係る大規模地震対策関係法律および地震防災対策関係法令の運用細目(文部科学省)」により、Esの値を0.7以上とするように定めています。
Gの算出方法
地盤指標(G)は、地盤、地形、地盤と建物の相互作用を考慮するための数値で、Esの補正係数になります。
Gはがけ地・地層の不整合性・局部的な高台など特殊な土地においては、一般の場合より数値が割増になります。 具体的には、以下の表の数値を用いて計算します。
一般 | がけ地 | 地層の不整合 | 局部的高台 |
1.0 | 1.25 | 1.25 | 1.25 |
出典:「2011年改訂版 既存鉄骨造建築物の耐震診断基準同解説」P78
(発行:一般財団法人 日本建築防災協会 国土交通大臣指定耐震改修支援センター)
なお、高所に取り付ける非構造部材の脱落、落下に対する危険性も踏まえて判定する必要があります。
外装材や高所の間仕切り壁などが脱落する可能性がある場合は、改善処置を講ずるか、非構造部材の変形追従性能に応じて架構の靭性指標を低減して、鉄骨造建造物の耐震性能を再評価し、耐震性能を判定するのが望ましいとされています。
Uの算出方法
用途指標(U)は、建物の用途などを考慮した数値で、Esの補正係数になります。
Uの値は構造体によってⅠ類、Ⅱ類、Ⅲ類の3種類に分けられ、Ⅰ類に近いほど高い数値となっています。
具体的な数値は以下の通りです。
・Ⅰ類=1.5
・Ⅱ類=1.25
・Ⅲ類=1.0
数値が高いほど重要度の高い建物に該当することを意味しています。
たとえばⅠ類に該当するのは「公共の避難施設、津波避難施設」、Ⅱ類は「公共の学校施設」、Ⅲ類は「民間の建物」などです。
こちらは鉄筋コンクリート造の場合と算出方法は同じになります。
判定方法
鉄骨造(s造)の耐震診断の判定方法では、Isi値とqi値を用いて判定します。 具体的には、「地震の振動および衝撃に対して倒壊し、または崩壊する危険性」を以下の3種類に区分けしています。
Isi<0.3またはqi<0.5の場合 | 地震の振動および衝撃に対して倒壊し、または崩壊する危険性が高い |
Isi≧0.6かつqi≧1.0の場合 | 地震の振動および衝撃に対して倒壊し、または崩壊する危険性が低い |
上記以外の場合 | 地震の振動および衝撃に対して倒壊し、または崩壊する危険性がある |
qi値の算出方法は次の項で解説します。
qi値の算出方法
qi値とは、各層の保有水平耐力に係る指標であり、Isi値と共に耐震性能の指標として使用されます。
qi値は以下の式によって求められます。
qi = Qui/0.25×Fesi×Wi×Z×Rt×Ai
Qui:i層の保有水平耐力
Fesi:i層の剛性率および偏心率によって決まる係数
Wi:i層が支える質量
Z:地域係数
Rt:振動特性係数
Ai:層せん断力の高さ方向分布で、建築基準法施工令に準ずる
木造の場合
最後に木造の場合の判定方法を解説していきます。
lw値とは
iw値とは、木造住宅における耐震指標で、値が大きい建物であるほど耐震性が高いとされています。
鉄筋や鉄骨造の建物と同様に、予備調査・現地調査に基づく結果から耐震診断を行い、数値を導き出します。
木造住宅には、簡易診断法(誰にでもできるわが家の耐震診断)、一般診断法、精密診断法の3種類の診断法があります。
簡易診断法は、特別な知識がない人でもできる診断法で、「耐震診断問診表」の各問診で適切な項目を選び、各評点をすべて合計し、評点の合計から、3段階で判定します。
一般診断法は、非破壊検査による簡単な調査をもとに診断する方法です。
精密診断法は、考え方は一般診断法と同じですが、より詳細な調査を実施し、建物の壁などの剛性から、偏心率や剛性率を求める方法です。
判定方法
Iw値は以下の式によって導き出せます。
Iw = Pd/Qr
Pd:建物が保有する耐力
Qr:必要耐力
iw値に応じた地震に対する安全性の目安は以下の通りです。
0.7未満:地震の振動及び衝撃に対して倒壊、又は崩壊する危険性が高い。
0.7以上1.0未満:地震の振動及び衝撃に対して倒壊、又は崩壊する危険性がある。
1.0以上の場合:地震の振動及び衝撃に対して倒壊し、又は崩壊する危険性が低い。
まとめ
is値は一般的に0.6以上あれば、地震に対して安全(想定する地震動に対して所要の耐震性を確保している)と言われています。
しかし、ここまで説明してきた通り、診断次数、建物の用途、建物の地盤状況によって、安全の対象となるis値は異なります。鉄筋コンクリート造での第2次・第3次診断法及び鉄骨造での耐震診断においてはq≧1.0であることも安全であるための条件となります。
したがって、is値が0.6以上あれば必ず安全であるとは限りません。
また木造の場合においては、判定基準はlw値を用い、lw≧1.0であれば地震に対して安全とされています。
しかし、木造の場合においても、簡易診断法、一般診断法、精密診断法のうち、どの診断法を用いるかによって数値は異なってきます。
単純に数値だけ見て安全であると判断するのではなく、診断の精度や建物の環境などを踏まえたうえで、総合的に判断することが大切です。