溶融亜鉛メッキは、高温で溶かした亜鉛に鋼材を浸し、表面に亜鉛皮膜を形成する技術です。亜鉛メッキの表面にできる亜鉛の酸化被膜が、空気や水を通しにくい安定した性質を持っているためサビを防ぎます。ここでは溶融亜鉛メッキの設計における注意点、耐用年数について詳しく解説していきます。
溶融亜鉛メッキの設計上の留意点
溶融亜鉛メッキは優れた防錆性能を持ちますが、設計上注意すべき点がいくつかあります。 通常の鉄骨とは異なる制約がありますので、現場に入った後にトラブルを生じることがないよう理解を深めておく必要があります。
溶接ができない
原則として、溶融亜鉛メッキ上に溶接することはできません。溶融亜鉛メッキされた鋼材の溶接時には亜鉛の融解、蒸発現象が伴い、この亜鉛蒸気による溶接欠陥であるブローホールが発生しますので、溶接部の引張強度が減少し所定の耐力を確保することが難しくなります。また溶融亜鉛メッキ被膜も損傷を受けて肝心の耐食性も著しく低下します。
寸法と形状の制約がある
メッキ可能な部材の大きさは、メッキ槽の寸法と工場設備の制約を受けます。大型のメッキ槽には長さ16m、幅2m、深さ3m程度のものもありますが、どの地域にもあるとは限らな いので、当該地域周辺のメッキ工場を事前に調べ、メッキ槽に入るよう、部材長や継手 位置を決める必要があります。
基本的には、部材をメッキ槽に浸漬した時に発生するガスや水蒸気が容易に逃げる形状であることが必要です。とくに鋼管の場合は、密閉部分があると浮力のためにメッキが困難となるうえ、空気や残留水分によって爆発の危険性もあるため、空気だまりや亜鉛だまりができないよう穴をあける必要があります。また、メッキ工程上、急熱急冷によって製品に部分的な温度差が生じるため、ある程度の歪みは避けられません。できるだけ歪みを少なくするためには、次のような点に注意する必要があります。
・溶接する部材相互の肉厚の差をできるだけ少なくし、最大でも2倍以下に抑える。
・肉厚の異なる部材の接合はめっき後ボルト接合とするのが望ましい。
・部材については、左右対象な形状にすると歪みが少ない。
・曲げ加工については、曲率半径を大きくするほど変形が少ない。 ・箱形品では、ガスや亜鉛の流出入が容易なように穴をできるだけ大きくする。
高力ボルトの摩擦接合における摩擦係数が低下する
溶融亜鉛メッキを施した高力ボルトの摩擦接合部の設計にあたっては、高力ボルトの軸断面に対する許容せん断応力度については、特殊な許容応力度として、平13国交告第1024号第1第四号に規定されています。この場合の摩擦係数は、通常の高力ボルト摩擦接合の場合が u = 0.45(短期)に対して0.40(短期)とされています。
溶融亜鉛メッキの耐用年数
大気中、水中、海水中、土壌中、コンクリート中それぞれ環境が大きく異なっているため耐用年数も異なります。
大気中の耐用年数
耐用年数=亜鉛付着量(g/m2)/腐食速度(g/m2/年)×0.9で表されます。
この式の仮定として、平均的には亜鉛皮膜の10%が残っている時点で素地から錆が発生するとしています(JIS-H8641解説)。
こちらによると
都市・工業地帯での腐食速度は9.3 (g/m2/年)より耐用年数53年
田園地帯での腐食速度は4.5 (g/m2/年)より耐用年数110年
海岸地帯での腐食速度は11.1 (g/m2/年)より耐用年数45年
となります。
参考:亜鉛めっきについて|日本溶融亜鉛鍍金協会ホームページhttps://www.aen-mekki.or.jp/
上記からわかるように、海岸地帯や都市・工業地帯では田園地帯の約2倍以上の腐食速度で、耐用年数はそれに反比例する形になっています。ただ、海岸地帯といっても耐食性は、海塩粒子濃度・風向・湿度などに影響され、腐食 速度が40(g/m2/年)という報告(三宅島、海岸から100m地点、暴露期間3年)もあります。一般的傾向としては海に近いほど大きくなり、屋内の亜鉛メッキは同じ地域の屋外に比べ5倍以上の耐用年数が期待できます。
水中の耐用年数
耐食速度は30~100(g/m2/年)であり、水中の耐食性はpHと温度が支配的な影響を与えます。 有効な耐食性を示す各項目と数値は以下の通りです。
-pH:6~12.5
-水温:50度以下
-軟水よりも硬水
海水中の耐用年数
耐食速度は(100~200g/m2/年)であり、浸漬後1年以上になると腐食生成物のために腐食速度は半減します。干満帯及びしぶきがかかるスプラッシュ・ゾーンでは(1000g/m2/年)にもなります。
土壌中の耐用年数
土壌中での腐食を支配する要因は、通気性・含水量・溶存物質の種類(量)・電気伝導度・ pH・埋め戻し状況など非常に多く、腐食速度のばらつきが大きいことが特徴です。 無機質酸化性のローム層では29(g/m2/年)程度ですが、アルカリ性の粘土層では210(g/m2/年)にもなります。
コンクリート中の耐食性
打設直後のコンクリート中のカルシウムを多く含む強アルカリ環境中では一旦溶融亜鉛メッキの表面は溶解しますが、カルシウムと反応して溶融亜鉛メッキ表面には安定な保護性被膜が生成することでアルカリ環境でもほとんど溶解しなくなり、下地の亜鉛皮膜を保護します。よってコンクリート中においては十分に高い耐食性が期待でき、耐用年数について心配する必要はありません。
溶融亜鉛メッキの特性を理解し適切な設計を
溶融亜鉛メッキは優れた防錆性能を持つ一方で、寸法や形状を一定値以下とする必要があるのに加え、溶接ができない、ボルト接合時の摩擦係数が低下する等の制約があります。 耐用年数も環境によって大きく違いがあり、使用方法によっては期待する耐食性が得られない場合もあります。これらの特性を十分理解した上で、溶融亜鉛メッキの使用箇所を決定する必要があります。