建築基準法施行令において、H形・溝形・BOX形・〇形の断面については許容曲げモーメントの算定式が明確に示されていますが、平鋼については示されていません。平鋼の場合、スパンが大きく板厚が薄いとH型や溝型のように横座屈を生じますので、横座屈による許容曲げ応力度の低減を適切に行う必要があります。ここでは平鋼の許容曲げモーメントの算出方法について解説します。
横座屈モーメントの理論式
梁の両端が単純支持され、曲げモーメントに勾配がある場合には、最大曲げモーメントが次のMcrに達した時に横座屈が生じます。
Mcr=Cb(EIy(π/l)2[ECw(π/l)2+GJT])1/2
ここでCbは横座屈モーメント係数と呼ばれ、曲げモーメントが直線的に変化する場合には
Cb=1.75+1.05(M2/M1)+0.3(M2/M1)2 (ただしCb≦2.3)
とおけます。
ここでM2/M1は端モーメント比で、-1≦M2/M1≦1の範囲の値をとり、梁の中間の曲げモーメントが最大となる時は、一様曲げと同様に扱いCb=1とします。
その他の諸定数は以下の通りです。
E:部材のヤング率(N/mm2)
Iy:部材の弱軸方向の断面2次モーメント(mm4)
l :部材のスパン(mm)
Cw:反りねじり定数(mm4)
G:せん断弾性係数(N/mm2)
JT:サンブナン捩り定数(mm4)
平鋼の横座屈モーメントの理論式
平鋼のような長方形断面では反り捩りモーメントが生じないことからCW=0となります。
よって上式は簡略化されMcr=Cbπ/l (EIyGJT)1/2となります。
計算例
スパン3m、厚さ12mm×せい200mmの平鋼の横座屈モーメントを算出してみます。
Mcr=π/l×(EIyGJT)1/2
L=3000mm
E=205000N/mm2
Iy=123×200/12=28800mm4
G=205000/2.6=78846N/mm2
JT=1/3×200×123=115200mm4
より
Mcr=3.14/3000×(205000×28800×78846×115200)1/2/1000000=7.66kNm
となります。
長期、短期の安全率については明確に定められていませんが、
鉄骨造の場合長期で1.5、短期で1.0であることからこれに従うと
長期許容横座屈モーメントは7.66/1.5=5.1kNmとなります。
なお材料強度で決まる長期許容曲げモーメントは強軸方向の断面係数は
80000mm3より156×80000/1000000=12.4kNm
以上より横座屈で決まる曲げモーメント5.1kNmの方が小さいので
長期許容曲げモーメントは5.1kNmとなります。
まとめ
平鋼はH型や溝型のように横座屈を生じますので、横座屈による許容曲げ応力度の低減を適切に行う必要があります。建築基準法においては明確に算出式が示されていませんが、学術的な理論式は示されていますのでこちらにより算出が可能です。平鋼を柱や梁で使用することはほとんどありませんが、2次部材のマリオンなどに使用する機会は多くあると思いますので今回紹介した方法により許容曲げモーメントを算出し耐力の検討を行う必要があります。