鉄筋コンクリート造建築物に生じる収縮ひび割れの問題は多くの関心を集めながらも未だ解決されていません。また収縮ひび割れの対策についてまとめられた文献も多くなく、設計者にとって悩ましい問題となっていました。この状況の中2006年に「鉄筋コンクリート造建築物の収縮ひび割れ制御設計・施工指針(案)・同解説」が刊行されました。この指針の特徴は近年の研究成果を反映してより詳しい情報を満載した収縮ひび割れ対策の仕様設計の手法に加えて、新たに性能設計の手法とその適用例が示されていることが特徴です。
ここではこちらの指針にならい、RCスラブを対象として収縮ひび割れを制御する方法について解説します。
なおRC壁における収縮ひび割れ対策については以下の記事で解説していますのでこちらも参考にして下さい。
【参照記事】RC壁における効果的な収縮ひび割れ対策について解説
スラブの鉄筋比を0.4%以上とする。ただし辺長比が2以上で1方向スラブに近い場合の長辺方向については鉄筋比を0.3%以上として良い
屋内において劣化抵抗性を確保するための設計ひび割れ幅0.3mm以下を期待できる鉄筋比は経験的な知見から0.4%程度以上と考えられているので「鉄筋コンクリート造建築物の収縮ひび割れ制御設計・施工指針(案)・同解説」では0.4％以上と規定されています。
ただし辺長比が2.0以上と大きく一方向スラブに近い場合、構造耐力にあまり関係しない長辺方向の配力筋の鉄筋比については0.1%緩和できるものとされています。
なお合成デッキスラブはワイヤーメッシュだけでも耐力上満足するスラブですが、一般的なスラブと比較して配筋量が少なく凹凸断面形状のため、収縮ひび割れが発生・拡大しやすくなります。よって配筋を割り増すとか、スパンースラブ厚比を小さくするなどの収縮ひび割れ対策を講じる必要があります。またスラブの支持梁に沿って収縮ひび割れが発生しやすい傾向があるので、必要に応じて支持梁と直交方向に補強筋を配筋することも効果的です。
厚さは15cm以上とし複筋配置とする
収縮ひび割れ幅の拡大を抑制するためには複筋配置とすることが効果的です。そのためには、コンクリートの充填性を考慮するとスラブ厚は15cm以上は必要になります。
なおスラブが直仕上げの場合、コンクリートの乾燥収縮や使用時(歩行・走行)の影響を直接受けるため、表面ひび割れが目立つ傾向にあるので、美観上床表面を保護する目的で何らかの仕上げを施すことも望まれます。直仕上げ仕様の場合、耐摩耗性などの表面保護のために浸透性の表面強化材を表面塗布することも多いです。
出隅、入隅、開口部に生じる応力集中に対し、補強筋で有効に補強する
建築物平面において、出隅入隅部となるスラブは、一般スラブに比べて斜めひび割れが発生しやすくなります。そのため、ひび割れに直交するように斜め補強筋を配置します。この斜め補強筋は屋上スラブの他一般スラブにも配筋することが望ましいです。スラブの開口補強は、設計物がその大きさや位置を考慮して個々に検討する必要がありますが、比較的小規模な開口の場合は、開口により切断される鉄筋量の1/2以上を開口の両側に配置し、さらに四隅に斜め補強筋を配置する形が標準的な仕様とされています。
この時の比較的小規模な開口とは、開口寸法60cm以下を目安とされており、60cmを超える場合は別途検討を行い補強筋を割り増すか小梁の設置を検討する形が良いでしょう。
スラブには設備配管類を埋設しないことを原則とする
スラブに設備配管や埋め込みボックス類を埋設すると断面欠損し構造耐力に影響する恐れがある他、収縮ひび割れを誘発するおそれが高くなります。そのため収縮ひび割れをの発生を抑制するためには、設備配管類を埋設しないことが望ましいです。
外気に曝される片持ちスラブは、防水仕上を施す
外気に直接曝される片持ちスラブ、例えば庇などは雨水が収縮ひび割れを伝わって下階の天端面にエフロレッセンスやツララ状の白色析出物などを発生させ、非常に見苦しくなることが多いのが実情です。よって雨水の影響を直接受ける庇などの場合、防水仕上げを施すことが推奨されます。
収縮ひび割れを極力抑えるコンクリートの配合とする
コンクリートの配合自体を、収縮ひび割れを極力抑える配合とすることは当然重要です。
以下の記事において詳しく解説していますのでこちらを参考にして下さい。
収縮ひび割れを極力抑えるコンクリートの配合
コンクリートの収縮ひび割れは粗骨材の種類に作用される
まとめ
RCスラブにおける効果的な収縮ひび割れ対策について解説しました。建物の設計段階と施工段階において今回解説した対策を施すことで、ある程度の収縮ひび割れの制御は可能となります。建物の予算、建物の仕様、RCスラブの場所に応じて、適切なひび割れ対策を施すことが重要です。