頭付きスタッドはコンクリートと鉄骨同士を接合するために用いられ、比較的高いせん断耐力が期待できます。ただし頭付きスタッドのせん断耐力の理論式を適用するにはいくつかの条件があるので設計において注意が必要です。なお現場監理においての確認項目は以下の記事で解説していますので参考にして下さい。
[参考記事]頭付きスタッドの現場監理において確認すべき項目について
頭付きスタッドとは
頭付スタッドとはJIS B 1198によって規定されている、RCスラブと鉄骨梁を接合する部材(ボルト)のことをいいます。
鉄筋コンクリートスラブ中の頭付きスタッドのせん断耐力式について
鉄筋コンクリートスラブ中の頭付きスタッド1本あたりのせん断耐力式は以下により算定されます。
qs=0.5×sca×√(Fc×Ec)
sca:頭付きスタッドの軸部断面積(mm2)
Ec:コンクリートのヤング率(N/mm2)
Fc:コンクリートの設計規準強度(N/mm2)
Qs:頭付きスタッドのせん断耐力(N)
長期許容せん断力は0.4×qs(N)
短期許容せん断力は0.6×qs(N)
で求められます。
せん断耐力式が適用できる条件について
頭付きスタッドはスタッドのピッチ・ゲージとは以下の条件とする必要があります。
(6.5 頭付きスタッドのピッチ・ゲージなど|各種合成構造設計指針・同解説 2010改定 日本建築学会P99)
√(Fc×Ec)の値が500N/mm2以上で900N/mm2以下であること。900N/mm2を超える場合は900N/mm2として計算すること
√(Fc×Ec)が500N/mm2未満については実験資料がほとんどありません。また√(Fc×Ec)が900N/mm2を超える範囲では、(Fc×Ec)が増しても頭付きスタッドのせん断耐力は増加しません。なおコンクリートの種類は普通コンクリートだけでなく、軽量コンクリート1種・軽量コンクリート2種についてもせん断耐力式は適用可能です。
頭付きスタッドの軸径は、呼び径で13mm以上22mm以下とし、かつその長さLとdの比が4.0以上(L/d≧4.0)
各種合成構造設計指針では様々な実験結果をふまえ軸径13mm以上22mm以下を適用範囲としています。頭付きスタッドの長さと軸径の比L/dが小さくなると、頭付きスタッドのせん断耐力が頭付きスタッドの鋼材の強さよりもコンクリートの支圧強度により支配されます。よって各種合成構造設計指針ではL/d≧4.0と定められています。
頭付きスタッドのピッチ(梁の材軸方向の間隔)は、軸径の7.5倍以上でかつ600mm以下とすること
頭付きスタッドのピッチ・ゲージの最小値は、せん断耐力が十分発揮されること及び溶接施工の関係から定まります。合成効果に伴って水平せん断力が作用した場合、ピッチがある程度小さくなると、コンクリートに頭付きスタッドを連ねる線状の割裂を生じ、頭付きスタッド1本当たりの耐力が小さくなります。
頭付きスタッドのピッチ・ゲージとせん断耐力との関係については、系統的な実験資料がほとんどありませんが、19mmの頭付きスタッドで、ピッチが150mm以上となっている実験では理論式の耐力がほぼ得られています。一方でピッチを小さくした実験では、耐力が低下している報告と低下していない報告がみられます。以上より各種合成構造設計指針ではピッチは軸径の7.5倍以上と若干安全側に規定されています。ピッチの最大値600mmは他の規準類の数値を参考に定められたものです。
頭付スタッドのゲージ(梁の材軸と直角方向の間隔)は、軸径の5倍以上とすること
ゲージがある程度小さくなると、コンクリートの支圧力の負担領域が重なり合って、ピッチの場合と同様に耐力が低下します。実験資料についてはピッチと同じく非常に少ないですが、19mmの頭付きスタッドに対してゲージを100mmとした実験が多いことから、各種合成構造設計指針ではゲージは軸径の5倍以上と定められています。
鉄骨梁フランジ縁と頭付きスタッドの軸心との距離は40mm以上とすること
鉄骨フランジ縁と頭付きスタッド軸心までの距離は、頭付きスタッドの機能上からはあまり問題なく、各種合成構造設計指針以外では25mmと与えられているものもあります。しかし実験報告によるとこの距離が小さいと溶接時にアークブローが生じ、溶接部ひいては母材に悪影響を及ぼす恐れがあるとされています。よって各種合成構造設計指針では前述の実験結果を考慮し鉄骨梁フランジ縁と頭付きスタッドの軸心との距離は40mm以上とすることと定められています。
床スラブの縁辺から頭付きスタッドの軸心までの距離は100mm以上とすること
床スラブ縁辺から頭付きスタッド軸心までの距離(縁端距離)に関する制限値は、頭付きスタッド列に直角方向に力が作用した時のコンクリートの割裂防止と、コンクリートの拘束減少による頭付きスタッドの耐力低下の防止を目的として設けられたものです。
頭付きスタッドのコンクリートかぶり厚さは、あらゆる方向について30mm以上とすること。ただしデッキプレートの溝幅によって制限される場合はこの項は対象外とする
頭付きスタッドのコンクリートのかぶり厚さは、頭付きスタッドを梁の鉄筋とみなして耐火上30mm以上と定められています。しかし梁の材軸方向とデッキ溝方向が直行する場合において、頭付きスタッドのデッキプレート貫通溶接形式では、デッキプレートの溝幅寸法によって、梁の材軸方向に関して30mmが確保できない場合があります。通常この場合は鉄骨梁に耐火被覆が施されるため問題ないので緩和規定が設けられています。
鉄骨梁のウェブ直上に溶接される場合を除き、溶接する頭付きスタッドの軸径は、フランジ板厚の2.5倍以下とする
梁のフランジ厚さに対して過大な径の頭付きスタッドを溶接すると、急激な入熱によってフランジ材に悪影響を及ぼすと言われています。フランジ厚と頭付きスタッドの径との関係について適当な実験例はありませんが、他の規準を参考にして上記の規定が設けられています。
まとめ
頭付きスタッドはコンクリートと鉄骨同士を接合するために用いられるもので、せん断耐力式の適用条件にはいくつか制限があることを説明しました。
頭付きスタッドの設計において、作用するせん断力に対して頭付きスタッドの本数を決定するだけでなく、頭付きスタッドのピッチやかぶり厚等が算定式の適用範囲の条件に合致しているか確認することが重要です。