特定天井とは?設計における注意点についても解説

東日本大震災では建物の天井落下による大きな被害が各所で相次ぎました。 これを受けて国土交通省が、天井に関する新たな安全基準を設けました。この基準の対象となる構造の天井が特定天井です。
ここでは特定天井の定義、仕様、計算ルートについて解説します。

目次

背景

平成23年3月に発生した東日本大震災においては、大規模空間を有する建築物で天井が脱落した被害が多数生じたことから、国土技術政策総合研究所は「建築物における天井脱落対策」について技術的検討を行い、建築物等のさらなる安全性を確保するため、建築基準法施行令(昭和25年政令第388号)の一部改正がなされました。

東日本大震災での天井脱落の被害

東日本大震災では、体育館・劇場・商業施設・工場などの大規模空間を有する建築物の天井について、比較的新しい建築物も含め、脱落する被害が多く見られました。報道等によると、天井の脱落等による人的被害は、死者5名、負傷者72名以上とのことでした。また被害件数は日本建設業連合会(社)からの報告によれば約2000件が判明しました。

従来の建築基準法における脱落対策の基準

建築基準法施行令第39条第1項においては「…内装材…その他これらに類する建築物の部分…は、風圧並びに地震その他の震動及び衝撃によって脱落しないようにしなければならない」と規定されており、天井についても脱落対策を講じることが求められていたが、これを担保する詳細な基準は示されていませんでした。

改正の経緯

平成13年の芸予地震、平成15年の十勝沖地震、平成17年の宮城県沖地震等、過去数次の地震において天井の脱落の被害が報告されたことを踏まえ、大規模空間を持つ建築物の天井の崩落対策が進められてきましたが、平成23年3月11日に発生した東日本大震災及びその余震時において、かつてない規模で人的・物的被害が発生したことにより、改正の機運が一気に進みました。具体的には建築基準法施行令第39条に第3項が新設され、大臣が指定する「特定天井」について、同項の規定に基づき大臣が定める技術基準に従って脱落防止対策を講ずべきことが定められると共に、時刻歴応答計算等の構造計算の基準に天井の脱落防止の計算を追加する等の改正が行われました。

特定天井とは

特定天井とは「脱落によって重大な危害を生ずるおそれがある天井」であり、天井の高さ、水平投影面積及び単位面積質量という客観的な指標を用いて定義されています。具体的には
・高さ6m超
・水平投影面積200㎡超
・単位面積質量2kg/㎡超
・吊り天井
・人が日常利用する場所に設置されている
を全て満たすものでです。

なお直天井とは構造部材に直に天井材を留める方法で、構造部材と天井材は一体化しているので、揺れに追従し応力も作用しません。よって直天井は、特定天井に該当しません。

吊り天井
直天井

特定天井の構造耐力検証法

中地震動において天井が損傷せず、大地震動において脱落が生じないことをクライテリアとして定められた検証法で、仕様ルート、計算ルート、大臣認定ルートの3つの方法があります。これらについて以下に解説します。

仕様ルート

耐震性能を考慮した天井の仕様に適合することで検証する方法です。斜め部材(ブレース)等により地震力による天井の振れを抑制し、併せて天井面と壁等の間に一定の隙間(クリアランス)を設けることにより、天井材の損傷・脱落の防止を図ることを基本的な考え方としています。
仕様ルートにおける天井脱落対策に関わる主な基準は以下の通りです。

改正前の仕様(参考)基準(仕様ルート1)
※平成28年4月1日施行
基準(仕様ルート2)
※平成28年6月1日施行
クリップ、ハンガー等の接合金物引っ掛け式等で地震時に滑ったり外れたりするおそれねじ留め等により堅結ねじ留め等により堅結
吊りボルト、斜め部材等の配置設計により様々密に配置
・吊りボルト:1本/㎡
・強化した斜め部材
:基準に従って算定される組数
密に配置
・吊りボルト:1本/㎡
・斜め部材:設けない
吊り長さ設計により様々3m以下で、概ね均一原則、1.5m以下
(吊り材の共振を有効に防止する補剛材等を設けた場合、3m以下)
設計用地震力(水平力)実態上、1.0G程度最大2.2G最大3.0G
(天井面の端部と周囲の壁等との間に生じる衝撃力を考慮)
クリアランス実態上、明確に設けられていない原則6cm以上隙間なし

計算ルート

天井の耐震性能を告示で定める計算で検証する方法です。こちらも仕様ルートと同じく斜め部材(ブレース)等により地震力による天井の振れを抑制し、併せて天井面と壁等の間に一定の隙間(クリアランス)を設けることにより、天井材の損傷・脱落の防止を図ることを基本的な考え方としています。

大臣認定ルート

主に以下のケースについて耐震性を検証する方法です。
-構造躯体本体の耐震性を時刻歴応答解析で検証している建築物の場合
-複雑な天井等仕様ルートや計算ルートに適合しない天井の耐震性を実験及び数値計算で検証する場合
天井の脱落対策については今後の技術開発の余地が大きいため、その促進を図る観点から、仕様ルートと計算ルートと異なる構造方法であっても別途国土交通大臣の認定を受けたものであれば採用できることとしています。

既存の建築物に設置されている天井が特定天井に該当する場合

既存の建築物に設置されている天井が特定天井に該当する場合には、建築基準法第3条第2項の規定により、現行の技術基準が直ちに遡及適用されることはありませんが、一定規模(増改築部分の面積が、既存部分の1/20以下かつ50㎡以下を除く)の増改築が行われる場合は、現行の技術基準に適合させるか、又は別途の落下防止措置を講じなければいけないこととされています。その際の落下防止措置については、ネットやワイヤーで一時的に天井の脱落を防ぐ方法も許容しています。

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