建築基準法施行令第39条第1項においては「…内装材…その他これらに類する建築物の部分…は、風圧並びに地震その他の震動及び衝撃によって脱落しないようにしなければならない」と規定されており、天井についても脱落対策を講じることが求められていましたが、これを担保する詳細な基準は示されていません。ここでは軽量鉄骨天井下地の設計を行うにあたり準拠すべき基準と注意点について解説します。
「公共建築工事標準仕様書(建築工事編)」に従う
結論としては「公共建築工事標準仕様書(建築工事編)」(国土交通省大臣官房官庁営繕部)
の14章金属工事 4節の軽量鉄骨天井下地の項の記載(以降「標準仕様書」とする)を参考に設計すれば問題ありません。最新では令和4年5月10に改定されたものが公開されています。
標準的な仕様が適用できない条件について
標準仕様書に記載されている標準仕様を適用できないケースがいくつかありますので、これらについてについて解説します。
これら1つでも該当する場合は適用ができないので注意が必要です。
天井ふところが3mを超える場合
天井ふところが大きい程、地震時に天井に作用する水平力は大きくなります。標準仕様書ではふところが3mを超える場合は標準仕様を適用できないとされています。
天井下地材において耐震性を考慮する場合
通常の建物よりも高い耐震性を天井に求める場合は、標準仕様によらず設計者の判断で天井の補強材の設計を行う必要があります。
屋外の軒、ピロティ等の天井において吹き上げによる力に対する耐風圧性を考慮する場合
屋外の軒や外部のピロティ等は吹き上げによる風荷重が上向きに作用します。標準仕様の納まりの場合は吊り天井であるため上から下への鉛直荷重に対しては抵抗できますが、上向きの荷重に対しては理論上抵抗できません。よってこのような条件下においては天井下地材を圧縮力に対しても抵抗できる部材を選定する他標準仕様によらず設計者で仕様を決定する必要があります。
特定天井に該当する場合
特定天井とは「特定天井及び特定天井の構造耐力上安全な構造方法を定める件」(平成25年8月5日 国土交通省告示第771号)に定められたもので、具体的には高さ6m超、水平投影面積200㎡超、単位面積質量20kg/㎡のいずれにも該当する吊り天井です。このような特定天井は地震時に天井に作用する水平力は非常に大きく、標準仕様によらず設計者の判断で天井の補強材の設計を行う必要があります。
天井面構成部材等の単位面積当たりの質量が 20kg/m2を超える天井
特定天井の条件の一部にも相当しますが、標準仕様書によるとこちらの質量を超過する天井についても標準仕様を適用できないとされています。
傾斜、段差、曲面等の水平でない天井
傾斜、段差、曲面等の水平でない天井は地震時の挙動が複雑であるため、標準仕様によらず設計者の判断で天井の補強材の設計を行う必要があります。
システム天井
システム天井とは主に吊り天井の一種であり、天井裏に設置される空調や照明などの設備を天井ボード材と一体にして組み、下地材に組み込むようにしてセットする天井のことです。システムはメーカーの方で天井構成材等仕様が規格化されているため設計者の方で仕様を指定する必要はありません。
標準仕様書に規定している天井下地の材料について
標準仕様書に規定している天井下地の材料については以下の指定がされており、これら全ての条件に適合することが必要です。
-天井下地材は、JIS A 6517 (建築用鋼製下地材 (壁・天井) ) による。
-野縁等は以下表により、種類は特記による。特記がなければ、屋内は 19 形、屋外は 25 形とする。
部材 | 19形(mm) | 25形(mm) |
シングル野縁 | 25×19×0.5 | 25×25×0.5 |
ダブル野縁 | 50×19×0.5 | 50×25×0.5 |
野縁受 | 38×12×1.2 | 38×12×1.6 |
野縁受ハンガー | 厚さ2.0mm以上 | 厚さ2.0mm以上 |
クリップ | 板厚0.6mm以上 | 板厚0.8mm以上 |
吊りボルト | 転造ねじ、ねじ外径9.0mm(有効径8.1mm以上) | 転造ねじ、ねじ外径9.0mm(有効径8.1mm以上) |
ナット | 高さ8.0mm以上 | 高さ8.0mm以上 |
-補強用金物は、防錆処理されたものとする。
-インサートは鋼製とし、防錆処理されたものとする。
標準仕様書に規定している天井下地の形式及び寸法について
標準仕様書に規定している天井下地の形式及び寸法については以下の指定がされており、これら全ての条件に適合することが必要です。
-野縁受、吊りボルト及びインサートの間隔は 900mm 程度とし、周辺部は端から 150mm 以内とする。ただし屋外の場合は特記による。
-野縁の間隔は、以下の表による。ただし、屋外の場合は、特記による。
天井仕上げの種類 | 野縁の間隔(mm) | ダブル野縁の間隔(mm) |
下地張りのある場合 | 360程度 | 1,800程度 |
仕上材料の直張り、壁紙又は塗装下地材を直接貼り付ける場合 | 300程度 | 900程度 |
ボード類の一辺の長さが450mm程度以下の場合の直張り | 225程度以下 | 450程度以下 |
金属成形板張りの場合 | 360程度 | - |
標準仕様書に規定している工法について
標準仕様書に規定している天井下地の工法については以下の指定がされており、これら全ての条件に適合することが必要です。
-インサートは、型枠組立時に配置する。
-吊りボルトの躯体への取付けは、コンクリート等の場合、埋込みインサートに十分ねじ込み、 固定する。鉄骨の場合、溶接等の適切な工法を用いて取り付ける。
なお、ダクト等のため、躯体に直接吊りボルトが取り付けられない場合は、アングル等の鋼 材を別に設けて、吊りボルトを取り付ける。
-野縁の吊下げは、吊りボルト下部の野縁受ハンガーに野縁受を取り付け、これに野縁をクリ ップで留め付ける。
なお、クリップのつめの向きを、交互にして留め付ける。また、クリップの野縁受への留付 けは、つめが溝側に位置する場合、野縁受の溝内に確実に折り曲げる。
-下地張りがなく野縁が壁等に突き付く場合で、天井目地を設ける場合は、厚さ 0.5mm 以上の コ形又はL形の亜鉛めっき鋼板を、野縁端部の小口に差し込むか、又は、添え付けて留め付ける。また、下地張りがなく壁に平行する場合は、端部の野縁をダブル野縁とする。
-設計図書に定められた開口部は、次による。
・照明器具、ダクト吹出し口等の開口のために、野縁又は野縁受を切断する場合は、同材で 補強する。また、ダクト等によって、吊りボルトの間隔が 900mm を超える場合は、補強を行うこととし、補強方法は、特記による。
・人が出入りできる天井点検口等の開口部は、野縁受と同材の取付け用補強材を設けて補強 する。
-野縁は、野縁受から 150mm 以上はね出してはならない。
-下がり壁、間仕切壁等を境として、天井に段違いがある場合は、野縁受と同材又はL-30× 30×3(mm)程度の部材で、間隔 2.7m程度に斜め補強を行う。
-天井のふところが 1.5m以上の場合、補強方法は特記による。特記がなければ、天井のふと ころが3m以下の場合、次により、補強用部材又は[-19×10×1.2(mm)以上を用いて、吊りボ ルトの水平補強、斜め補強を行う。
・水平補強は、縦横方向に間隔 1.8m程度に配置する。なお水平補強は、吊りボルトに適切な方法で接合する。
・斜め補強は、相対する斜め材を1組とし、縦横方向に間隔が 3.6m程度に配置する。 なお、斜め補強は、吊りボルトに適切な方法で接合する。
-溶接した箇所は一液形変性エポキシ樹脂さび止めペイント(塗付け量0.10kg/㎡、標準膜厚30um)に相当する錆止め塗料を塗り付ける。
まとめ
一般的な天井であれば「公共建築工事標準仕様書(建築工事編)」に従う形で問題ありません。ただし特殊な天井の場合はこちらに拠らず設計者の判断で天井下地の設計を行う必要があります。建物に求められる条件に応じて設計者が適切に判断し設計を行うことが重要です。