耐震診断は義務化されている|対象建造物の着工時期・用途を解説

地震大国の日本。過去に建てられた建造物の耐震性の不安が指摘されています。しかし耐震改修促進法が改正され、耐震診断は義務化されました。これにより、一定の条件に当てはまる建築物は耐震診断を行わなければなりません。

対象の建造物は幅広く設定されています。耐震診断の義務化、その内容について詳しく解説していきます。

目次

耐震診断とは

耐震診断とは

耐震診断とは、過去の耐震基準で設計され、すでに完成している建造物について、現在施行されている新しい耐震基準に照らし合わせて耐震性が十分であるかどうかを判断するものです。

建物の耐震基準は、建築基準法で定められています。現在の耐震基準は、平成7年1月に発生した阪神・淡路大震災による甚大な被害にかんがみて作られたもので、平成7年10月27日に施行されました。

耐震診断は、診断のレベルで診断内容が異なります。木造ではなくRC造・SRC造の建造物の場合、1次診断で柱や壁の断面積をチェックします。2次診断では、鉄筋も調べて耐震性を確認します。

2次診断は、学校・体育館など公共施設の建物の耐震診断で用いられる信頼性の高い方法です。古い建築基準法で設計された建物は、2次診断を使って耐震診断を行うよう推奨されています。

耐震診断の対象建築物は

耐震診断の対象建築物は

耐震診断が義務付けられている建造物は、住宅だけではありません。不特定多数が利用する施設や避難弱者が訪れる場所が考慮されており、学校・商業施設・飲食店・美容院・理髪店などさまざまな建物が対象です。

耐震診断を行った結果、安全性が確保できないと判断された場合は、建造物の所有者が耐震改修を行う努力をしなければいけません。

学校

小学校・中学校・中等教育学校の前期課程・特別支援学校も、耐震診断義務がある建物です。これらの学校の中でも、昭和56年5月31日以前に建築確認済証が交付された建物で、階数が2階以上あり、屋内運動場を含む1,000㎡以上の広さがある学校は、特定既存耐震不適格建築物とされています。

特定既存耐震不適格建築物とは、建築当時の基準に則って建てられた建造物が、基準が改定されたために、新たな基準を満たせなくなったものをいいます。

特定既存耐震不適格建築物は、新たな耐震基準で調査を行い、その結果を所管行政庁に報告しなければいけません。

体育館

体育館も耐震診断の対象になっています。この場合の体育館は、学校に併設されているものではなく一般公共用に使われているものです。体育館の特定既存耐震不適格建築物の要件は、昭和56年5月31日以前に建築確認済証が交付された建物で、1階以上で広さが1,000㎡以上あるものです。

学校や公共の体育館は、災害のときの避難所に使われる場合もあるため、耐震基準を満たした安全な建物であることが求められます。

病院・診療所

病院・診療所も耐震診断を行わなければいけません。特定既存耐震不適格建築物の要件は、昭和56年5月31日以前に建築確認済証が交付された、3階以上で1,000㎡以上の建物です。病院の施設は、継続して日本の医療体制を維持するためにも自然災害が起きても影響が及ばない強度と安全性が必要です。

入院施設のあるような大規模の病院だけではなく、診療所も耐震診断が義務付けられています。

運動施設

体育館以外にもボーリング場・スケート場・プールなどの一般の人が利用する運動施設も、耐震診断が義務付けられています。特定既存耐震不適格建築物は、昭和56年5月31日以前に建築確認済証が交付された、3階以上で1,000㎡以上の建物が対象です。

映画館・劇場

映画館・劇場も耐震診断の義務があります。特定既存耐震不適格建築物の要件は、昭和56年5月31日以前に建築確認済証が交付された、3階以上で1,000㎡以上の建物です。

また、観覧場・演芸場も同じく耐震診断が義務付けられています。これらの施設は一度に多くの人を収容できるため、耐震だけではなく地震・火災など万が一の災害が起きたときに速やかに人々が避難できる経路を確保しておくことも必要でしょう。

公会堂・展示場

公会堂・展示場も耐震診断義務があります。特定既存耐震不適格建築物の要件は昭和56年5月31日以前に建築確認済証が交付された、映画館・劇場と同じく3階以上で1,000㎡以上の建物です。

百貨店・マーケット

百貨店やマーケットも多くの人が出入りする施設で、耐震診断義務化の対象になっています。特定既存耐震不適格建築物は、昭和56年5月31日以前に建築確認済証が交付された、3階以上1,000㎡以上の建物です。規模の大きな百貨店とマーケットだけではなく、卸売市場や物品の販売業を営む店舗もすべて耐震診断が義務付けられています。

ホテル・旅館

ホテルと旅館も耐震診断が必要です。 特定既存耐震不適格建築物は、昭和56年5月31日以前に建築確認済証が交付された、3階以上1,000㎡以上の建物ですが、旅館の中には古い時代に建てられた建造物自体が、訪れる人にとって魅力の一つになっているところもあります。

外観を変えずに耐震を考えてリニューアルする旅館も増えているので、心配な場合は予約をする前に耐震について確認するといいでしょう。

賃貸住宅・事務所

賃貸住宅と事務所も耐震診断義務があります。また、寄宿舎・下宿も対象になります。賃貸住宅は、共同住宅のみが義務となっています。賃貸物件でも一軒家は対象外です。

持ち家の場合は、自分で耐震補強を行う必要があります。賃貸物件の耐震診断がどうなっているのか気になる場合は、大家さんに問い合わせましょう。

特定既存耐震不適格建築物の要件は、昭和56年5月31日以前に建築確認済証が交付されており、3階以上、広さが1,000㎡以上ある建物です。

老人ホーム・児童厚生施設

老人ホーム・老人福祉センター・老人短期入所施設・福祉ホーム、それに類する建物も対象です。また、児童厚生施設・身体障害者福祉センターおよびこれらに類する建物もすべて耐震診断を行わなければいけません。

特定既存耐震不適格建築物は、昭和56年5月31日以前に建築確認済証が交付された、2階以上で広さ1,000㎡以上の建物です。老人ホームや身体障害者福祉センターなどに訪れる人の中には、迅速に避難ができない人も少なくありません。耐震基準を満たした安全な建物を維持することは、不可欠といえるでしょう。

幼稚園・保育所

幼稚園と保育所も対象です。特定既存耐震不適格建築物の要件は、昭和56年5月31日以前に建築確認済証が交付された建物で、2階以上で広さ500㎡以上となっています。ほかの施設や建物よりも特定既存耐震不適格建築物の広さが狭くなっています。

飲食店

飲食店・キャバレー・ナイトクラブ・ダンスホールなども耐震診断が義務付けられています。特定既存耐震不適格建築物は、昭和56年5月31日以前に旧耐震基準により新築の工事に着手したもので、3階以上で広さが1,000㎡以上ある建物が対象です。

理髪店・美容室

理髪店・美容室も対象です。特定既存耐震不適格建築物は、昭和56年5月31日以前に建築確認済証が交付された建物で、3階以上で広さが1,000㎡以上と飲食店と同じ条件です。

理髪店・美容室は、個人で経営する店も多いですが、不特定多数の人が利用する施設のため耐震診断は欠かせません。

工場

危険物の貯蔵場や処理場に使われる以外の工場にも、耐震診断が義務付けられています。また特定既存耐震不適格建築物の要件として、昭和56年5月31日以前に建築確認済証が交付された建物で、危険物の貯蔵場と処理場に使われる工場が指定されています。

東日本大震災のように、地震による工場内部の火災発生や危険物の流出を避けるために、耐震性が弱い工場は耐震補強をしっかり行うべきでしょう。

防災拠点となる建築物

防災拠点となる、病院や官公署、災害対策に必要な建造物も耐震診断が義務付けられています。こちらは、特定既存耐震不適格建築物の要件はありません。

耐震診断対象の着工時期

耐震診断対象の着工時期

耐震診断が義務付けられている建物は、昭和56年5月31日以前に建築確認済証が交付された建物です。建築基準法施行令の改正により、昭和56年6月1日から新耐震基準に変わったため、これ以前の建造物は、耐震診断を必ず行うこととされています。

日本の建造物の耐震化状況

日本の建造物の耐震化状況

政府は、平成27年までに住宅や不特定多数の人が利用する建造物の耐震化率を90%にする目標を掲げ、さらに令和2年までには95%に達するよう計画を進めてきました。

しかし平成30年の段階では、耐震化率は約87%に止まっています。さらに多数人が利用する建築物においては、耐震化率は約89%と推計されています。

耐震診断は義務!早めの対応を

耐震診断は義務!早めの対応を

日本に住んでいる限り、地震の影響は避けられません。古い耐震基準をもとに建てられた建物は、現行の耐震基準を満たしていないため、震度6〜7の大地震が起きた場合、倒壊する危険性がとても高いといわれています。

耐震診断が義務になる建造物の所有者は、なるべく早く耐震診断を行い必要であれば補強工事を行ってください。補助金を申請できるケースもあるので、行政に相談してみましょう。

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次