耐震診断に必要な資格とは?取得方法と依頼方法を確認しよう

旧耐震基準で建てられた建物は耐震診断を行い、場合によっては耐震補強工事を実施する必要があります。耐震診断を行うには資格が必要ですが、耐震診断士という国家資格はありません。講習を受けた建築士が耐震診断資格を得られるため、先に建築士の資格を取得する必要があります。また、耐震診断を実施するには資格を持つ建築士への依頼が必要です。

目次

耐震診断に必要な国家資格はある?

耐震診断に必要な国家資格はある?

1981年以前に建てられた建物は現行の耐震基準を満たしていない可能性があるため、耐震診断を行う必要があります。仮に耐震基準が満たされていなければ、建物の用途と規模によっては耐震化工事を行うか、新耐震基準に合う建物を建て直さなければいけません。

簡易的な耐震診断なら建物の所有者自身がチェックシートを見ながら行うこともできますが、正確な耐震診断の実施には土木・建築の専門知識と機器が必要です。国が耐震診断資格の認定制度を行っているため、有資格者が在籍する会社への依頼が求められます。

耐震診断士という名称の国家資格はない!

耐震診断を行うための国家資格自体は存在しますが、正確には「耐震診断士」という名称ではありません。また、耐震診断を行うための資格を単独で取得はできず、建築士資格の取得後に一定要件を満たして取得することになります。

耐震診断に関する民間資格としては耐震プランナーやホームインスペクターがあり、誰でも受験可能です。国家資格ではないため税金の控除や地震保険契約に必要な書類を作成することはできませんが、公共施設や病院・店舗など特定の施設以外の建築物を耐震診断しても違法ではありません。

日本建築防災協会などの講習受講で耐震診断資格を得られる

国が認定する耐震診断資格を取得するには、日本建築防災協会などが実施する「国土交通大臣登録・耐震診断資格者講習」の受講が必要です。講習は2日間あり、休憩時間を含めて1日6時間ずつ行われます。Web受講も可能です。

耐震診断資格を得るだけならば1日目の講習を受けるだけでよいですが、日本建築防災協会は「耐震改修の知識を得るために2日目も受講することを勧める」としています。約2万円の受講料が必要ですが、試験はありません。受講後1か月半程度で耐震診断・耐震改修講習修了証が送付されます。

耐震診断資格を得られるのは建築士のみ

耐震診断資格者講習の受講資格があるのは、建築士資格を持つ人のみです。なお、建築士には一級・二級と木造建築士の3種類がありますが、いずれの建築士でも講習を受けて耐震診断資格を取得できます。

ただし、建築士資格さえあれば受講できるものの、耐震診断資格者講習自体が鉄筋コンクリート造・鉄骨造・木造の3種類存在するため、すべての建物で耐震診断を行う資格を得るためには、3種類の講習すべてを修了しなければなりません。

耐震診断資格を名簿に登録できる自治体もある

建築士資格を有し耐震診断資格者講習を修了したことが条件ですが、自治体によっては「耐震診断士」や「耐震診断資格者」といった名称で有資格者を名簿に登録していることがあります。自治体の認定を受けることで安心して耐震診断の依頼・受注を行えるほか、助成を受けられることもメリットです。

たとえば、東京都足立区では耐震診断・耐震工事助成事業を行っており、耐震診断を受けると木造戸建て住宅で10万円、木造共同住宅でも1戸あたり10万円・上限500万円の補助金が支給されます。助成を受けるには、区に登録された耐震診断士による実施が必要です。

建築士資格を得るには大学や高校での指定科目修了が必要

では、耐震診断資格の取得に必要な建築士資格はどうすれば得られるのでしょうか?残念ながら、建築業に携わったことがない人が試験を受けて建築士資格を取得することはできません。建築士になるには、国が定める一定の学歴か実務経験が必要です。

大学・高等学校・専修学校・職業訓練校等または都道府県知事が認定する外国の大学で建築に関する科目を修了すれば、建築士試験の受験資格を得られます。その上で、木造建築士または二級建築士の試験を受けて合格しなければなりません。

なお、建築士試験の受験資格は、建築整備士の資格があるか、国土交通省令で定められた実務経験を7年以上積むことでも得られます。ただしいずれも建築士と同等の知識と権限を求められるため、学校に通って建築士試験の受験資格を得るほうが近道です。

耐震診断資格があれば何ができる?

耐震診断資格があれば何ができる?

実は、簡単な耐震診断ならば資格を持たない人でも行えます。たとえば一般住宅に住む人自身が、チェックシートや機器を使いながら目視でひび割れがあることを確認し、簡易な計算をしても構いませんし、前述のように民間資格としての耐震診断士も存在します。

一方で国の耐震診断資格があれば、都道府県・市町村が指定する官公署・病院や学校といった公共施設や、不特定多数が利用する店舗・ホテルなどの耐震診断を行えます。また、地震保険の契約や税務に必要な耐震診断報告書の作成にも、国の資格が必要です。

耐震診断で建物を調査し報告書を作成する

国の資格が必要な、公的な効力を持つ耐震診断では、書面と現地での目視確認に加えて構造計算も行います。耐震診断資格の取得に建築士資格が求められるのはこのためです。耐震診断の結果は報告書にまとめられて依頼主に渡され、公的な書類として使用できます。

地震保険の契約時には、耐震性が高いことを証明すれば割引を受けられます。耐震性は設計図書等で確認しますが、設計図書が存在しない場合に提出可能なのが耐震診断結果報告書です。中古住宅の売買時にも、耐震診断結果報告書があれば住宅ローン控除や減税を受けられる場合があります。

必要があれば耐震補強工事を行う

耐震診断を行って耐震強度が足りないことがわかれば、耐震補強工事か建物自体の建て替えを行わなければなりません。配管やエレベーターなどの設備が古く、建て替えたほうが低コストである場合を除けば、耐震補強工事を選択するのが現実的でしょう。

一般の木造住宅ならば、100万円台で耐震補強工事ができます。鉄筋コンクリート造ビルの耐震補強工事では、1980年代以前に建設された学校などと同様に、壁に筋交いを設置するのが一般的です。大規模なビルであれば、より耐震性を高められる制振装置・免震装置の設置も行います。

資格保持者に耐震診断を依頼する方法

資格保持者に耐震診断を依頼する方法

次に、資格を持つ人に耐震診断実施を依頼する方法を見ていきましょう。耐震診断は多くの工務店やリフォーム会社で実施しており、見積もりや工事に併せて耐震診断を依頼することもできます。しかし、資格がなくても耐震診断は行えるため、資格を有するか否か確認が必要です。
自治体によっては、国の耐震診断資格を持つ建築士の名簿を作成・公開しているため、信頼性が高い事業者を選びたければ自治体の相談窓口を利用しましょう。耐震診断の実施により助成金を受けられる場合もあります。

建築設計事務所や耐震診断協会に依頼できる

民間の事業者では、工務店やリフォーム会社のほかに建築設計事務所も耐震診断を行います。建物の強度など構造計算の知識を有する建築士が在籍するため、耐震診断資格を持つ可能性も高いといえるでしょう。

どの建築設計事務所に耐震診断を依頼すればよいかわからない場合は、日本耐震診断協会に問い合わせれば紹介してもらえます。電話やFAXのほか、メールでの相談も可能です。

耐震診断のおおまかな流れと費用

耐震診断の実施が決定したら、まず予備調査を行います。建物の構造などが詳細に記された設計図書を確認しますが、なければ現地調査を行わなければいけません。耐震診断には簡単な一次調査から詳細な三次調査まで三つのレベルがあり、見積もりの時点でそれぞれの費用が提示されます。

一次調査では書面に加えて目視で建物の劣化を確認しますが、建材の採取は行わないため、数時間で終了します。一次診断以降の二次・三次診断も行う場合は、コンクリート採取後の精密調査や測定器による地盤調査も実施するため、より長い期間が必要です。

費用は建物の構造や大きさにより異なりますが、1平方メートルあたり1,000円から3,000円程度です。

耐震診断資格により建築士の信頼性が高まる

耐震診断資格により建築士の信頼性が高まる

老朽化する建物の増加により耐震診断のニーズは年々高まっていますが、高い精度の調査を行うには国が認定する資格が必要です。建築士資格を持つ人は、講習会に出席して耐震診断資格を得ることで信頼性を一層高められます。

耐震診断を依頼する場合にも、資格を持つ建築士が在籍する構造設計事務所などに依頼することで、公的な効力を持つ耐震診断結果報告書を取得できます。

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