コア抜き工事とは、既存の建物のコンクリート部分である壁や床に穴を開ける工事です。なぜコンクリートの壁や床に穴を開けるのでしょうか。それは配管や配線を通すためや解体するためだけではなく、耐震の精度を確認するためでもあります。建物の劣化や強度を調べることは、建物の安全な維持管理に重要です。コア抜きを通してどのように耐震診断をするのか、詳しく解説します。
コア抜きとは
コア抜きとは、建物の壁・床などに円筒形の穴を開けることです。コンクリートに穴を開けるのは建物の安全面で不安を感じる場合もありますが、正しい手順を踏んで行えば問題ありません。
コア抜きには2種類の方法があり、工事をする場所や環境に合わせた方法を選びます。方法によってメリット・デメリットがあるので、穴を開ける場所や環境によって使い分けが必要です。
ここでは、コア抜きの2つの方法について、メリットとデメリットを紹介します。また、建築時に貫通孔を開ける方法で「スリーブ工法」があります。コア抜き工事とスリーブ工法との違いについても見ていきましょう。
乾式穿孔
乾式穿孔は、コンクリート専用のキリをハンマードリルに取り付けて穴を開ける方法です。乾式穿孔のメリット・デメリットは次の通りです。
メリット
・水が使えない場所でも工事ができる
・水漏れの被害がない
・機械のセッティングがないので手軽にできる
デメリット
・大量の粉塵が舞うので防塵マスクや防塵メガネなどの装備が必要
・粉塵による汚れを防ぐため、養生が必要
・くりぬく際に摩擦が激しく、熱が発生するためドリルの消耗が早い
・穴を開けるときに強い衝撃がかかるので、コンクリート面が崩れることがある
・鉄筋に当たると鉄筋を切断するのに時間がかかる
湿式穿孔
湿式穿孔とは、ダイヤモンドビットが付いたコアドリルを使い、穴を空ける方法です。水を使用しながら行うので粉塵が抑えられます。そのため一般的には湿式穿孔が多く行われます。湿式穿孔のメリット・デメリットは次の通りです。
メリット
・水を使うので粉塵を抑えられる
・切り込みが軽いので、精度の高い穴が開けられる
・鉄筋を簡単に切削できるので、鉄筋に当たっても短時間で穿孔できる
・穿孔面に凹凸が少ないので補修する必要がない
・くりぬく際の摩擦熱を冷却水で冷ますので、ダイヤモンドビットが長持ちする
デメリット
・湿式穿孔で使用する専用の機械が高価
・作業時にでる汚水の処理が必要
・作業の際に近くに電気機器がある場合は、水がかからないように注意が必要
スリーブ工法との違い
スリーブ工法とは、建物を建てる前にあらかじめ電気や空調設備の配管・配線を通す「スリーブ」という貫通孔を開ける方法をいいます。コア抜きは建て終わった後に穴を開ける工事で、リフォームや改修工事、また設計ミスなどで必要になったスリーブを、建物を建てた後に作る方法をいいます。
コア抜きの目的
コア抜きをする目的はさまざまです。コア抜きはコンクリートに穴を開ける工事なので、必要以上に行うと建物の強度を弱めてしまう恐れもあります。コア抜きをする際は専門の業者に相談や依頼をして正しい手順を踏み、目的を絞って行いましょう。
配管の為の穴あけ
リフォームや設計ミスでスリーブを入れ忘れてしまった場合、配管を通すための穴を開ける目的で行われます。また、エアコンを設置する際に付けるダクト穴を開けるときに行います。
住宅・機械などの基礎を撤去
重機が入れないような狭い場所や立体駐車場などの基礎を撤去する場合に、コア抜き工事は有効な手段です。コア抜き工事とあわせて道路カッター・バースター・ハンドクラッシャーなどを使い作業するので、振動や騒音を抑えて工事ができます。
中性化深さの確認
コア抜きは、コンクリートの劣化である中性化の深さを確認する目的としても行われます。中性化とは、普段高いアルカリ性で保たれているコンクリートが排気ガスや二酸化炭素の侵入で中性になり、劣化していく現象をいいます。コア抜きで採取したコンクリートにフェノールフタレイン1%のエチルアルコール溶液を噴霧して、赤紫色に変わった位置から中性化の深さを確認します。
コア抜きをするメリット
コア抜きはさまざまなシーンで行われますが、建物に穴を開けることにメリットはあるのでしょうか。もちろんコンクリートに穴を開けることで重大な問題を引き起こす場合もあります。しかし、建物の安全な維持管理のためにはコア抜きをして重要な情報を得ることも必要です。コア抜きする際のメリットについて確認しましょう。
既存の建物の強度がわかる
建物のコンクリート部分に亀裂やひび割れなどが生じた場合は、コア抜きで採取したコンクリートを利用して建物の強度を調査します。採取したコアはコンクリート圧縮強度試験・中性化試験をして劣化の状況を確認します。建物の強度がわかれば、安全な維持管理の対策に役立ちます。また過剰な工事を抑えるなどコストの削減にも効果的でしょう。
建物の強度を調査する方法にはコンクリート圧縮強度試験があります。コンクリート圧縮強度試験は採取したコアに圧力をかけてその強度を測定します。コンクリートの建物はコンクリートの強度、特に圧縮する力を元に設計されています。また、建物の劣化による物理的な変化は圧縮強度に関係があり、コンクリートの圧縮強度を把握するのは建物の劣化を判断するのにとても重要なことです。圧縮強度は建物の部位・位置などで違いがあるので、調べる必要性が高い部分の調査を選んで行います。
コンクリート躯体の劣化がわかる
コンクリートの劣化を判断するのに中性化試験があります。中性化試験とは、コンクリートの表面から内部に向かってアルカリ性が失われている状態を調べる試験です。これにより今後どのように中性化が進んでいくのかが予測でき、中性化による劣化を抑える対策も選択できるのです。中性化は二酸化炭素や排気ガスが侵入しておこる現象です。徐々に進むもので、建設後すぐにはこの現象はおこりません。しかし、数十年経っている建物であれば発生している可能性があります。
コア抜きで注意するポイント
既存の建物に穴を開けるコア抜き工事は、どこでも制限なくできるものではありません。穴を開けたことで、建物に問題を引き起こしてしまう恐れもあります。工事を行う際には万全な準備と安全の確保が大切です。注意するべきポイントを紹介するので、依頼する業者や関係機関との打ち合わせで確認をして、トラブルにならないように努めましょう。
鉄筋や配線を避けて穴開け・切断
コンクリートの中には鉄筋が細かく差し込まれています。鉄筋は建物の土台になるため、切断してしまうと地震や振動などで建物が倒壊する恐れがあります。まずは穴を開けたい場所にしるしを付けて、レントゲン撮影をします。レントゲン検査をして穴を開けても問題ないか確認してから、工事を実施します。
建物を騒音や振動を抑えて解体
コア抜き工事は乾式穿孔・湿式穿孔どちらも騒音が発生します。騒音問題にならないよう、近隣の方には工事を行うことを事前に周知しておきましょう。作業時には防音シートで作業場所を囲い、周辺地域への騒音対策を施します。粉塵や汚水・コンクリートの塊などが飛び散らないように、周辺を養生するなどの対策も必要です。また作業をする際にはまわりの安全を確保して、貫通させる場合は反対側の状況も確認してから行うようにします。
開けた穴を元に戻す
コア抜きを行う目的や場所、また依頼主の意向によっては作業後に穴を元に戻すこともあります。戻す際はすき間ができないように、モルタルで隙間を埋めるなどの作業を行います。
耐震診断はコア抜きを利用して建物の安全な維持管理を
コア抜きは配管・配線を通すほかにさまざまな目的で行われる工事で、検査や強度チェックをする重要な役割を果たすものでもあります。しかし、コンクリートに穴を開ける工事のため、建物に重大な問題を引き起こす可能性もあります。コア抜きを行う際は信頼できる専門の業者に依頼して、コア抜きできる場所を慎重に見極めてから行いましょう。建物の強度が数値に表され、耐震・耐久性が可視化できれば、維持管理していくための最善の対策が立てられます。耐震補強など建物の維持管理で悩みを抱えている方は、専門家に相談するのがよいでしょう。