耐震診断にかかる費用は?実務経験が豊富な構造設計者が解説

住宅や建築物の耐震性能が気になっていても、費用の問題で耐震診断が行えないという方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は耐震診断の流れや費用について詳しくご紹介します。

目次

耐震診断とは何か?

耐震診断の目的は、「旧耐震基準で設計された既存建築物の耐震性を、現行の耐震基準で評価すること」です。耐震診断の結果「耐震性能が不足している」と判断された建築物は耐震補強工事を行わなければいけません。

耐震基準は「建築基準法」で定められていますが、この基準は大地震などの災害を教訓に数回改訂されています。なお、建築物の耐震化を促進させるために制定された「耐震改修促進法」では、一定の建築物に対する耐震診断を義務付けています。

とくに注意したいのは、1981(昭和56年)5月31日以前の「旧耐震基準」で建てられた建築物です。国は旧耐震基準に該当する建築物の耐震性能強化を推進していますが、未だに全国で約900万棟の耐震性能強化が行われていません。

耐震診断すべき建物

耐震診断を行う「義務」がある建物と、診断が「推奨」される建物の基準を見ていきましょう。

耐震診断が義務化されている建物

耐震診断が義務化されているのは、昭和56年5月31日以前に着工した下記の建築物です。

用途義務化される建築物の要件
ホテル、旅館        階数3以上かつ5,000㎡以上
百貨店、マーケット、その他の物品販売業を営む店舗
展示場
集会場、公会堂
劇場、観覧場、映画館、演芸場
病院、診療所
ボーリング場、スケート場、水泳場 その他これらに類する運動施設
小学校、中学校 中等教育学校の前期課程、もしくは特別支援学校階数2以上かつ3,000㎡以上
体育館(一般公共の用に供されるもの)階数1以上かつ5,000㎡以上
老人ホーム、老人短期入所施設、福祉ホーム その他これらに類するもの  階数2以上かつ5,000㎡以上
老人福祉センター、児童厚生施設、 身体障がい者福祉センター、その他これらに類するもの
幼稚園、保育所階数2以上かつ1,500㎡以上
博物館、美術館、図書館            階数3以上かつ5,000㎡以上
遊戯場
公衆浴場
飲食店、キャバレー、料理店、ナイトクラブ、 ダンスホール、その他これらに類するもの
理髪店、質屋、貸衣装屋、銀行 その他これらに類するサービス業を営む店舗
保健所、税務署 その他これらに類する公益上必要な建築物
車両の停車場又は船舶、もしくは航空機の発着場を構成する建築物で、旅客の乗降又は待合の用に供するもの
自動車車庫その他の自動車又は 自転車の停留又は駐車のための施設

上記の建築物は、耐震診断の結果を報告する義務もあります。さらに、所管行政庁は報告があった診断結果を公表します。報告を怠った場合は、100万円以下の罰金が科せられます。

耐震診断の実施が推奨されている建物

「義務」に該当しなくても、1981年(昭和56年)5月31日以前の「旧耐震基準」で設計された建築物は現行基準を満たしていないため、耐震診断を行うことが推奨されます。
なお、木造住宅に関する基準は2000年に再改正されているため、2000年よりも前に着工した木造住宅は耐震診断を検討する必要があるでしょう。
新耐震基準で建てられた鉄筋コンクリート造や鉄骨造りの建築物も、劣化が懸念される場合は耐震診断を受けた方が安心です。

耐震診断の手順

耐震診断の主な手順は、以下のようになります。
1.予備調査
2.現地調査
3.詳細診断
それぞれ詳しく見ていきましょう。

予備調査

まずは、耐震診断を受ける建物の延床面積、築年数、構造などを資料で確認していきます。必要になる主な資料は下記です。
・設計図書
・構造計算書
・確認申請書類
・検査済証
・リフォームや増減築履歴
など
このような資料が手元にない場合は実測になるので、費用が高額になることもあります。

現地調査

予備調査が完了したら、現地に赴いて以下のような調査をします。

・外観調査:ひび割れ、不同沈下など
・材料調査:コンクリート圧縮強度、中性化の深さ測定など
・図面照合:柱や壁の断面の寸法、増改築による変更の確認など
・敷地内と周辺の状況確認:地盤、敷地の傾斜など

詳細診断

現地調査の結果から診断レベルを判定して詳細診断を行います。診断レベルは「一次」「二次」「三次」に分けられますが、段階的に診断するのではなく、必要に応じていずれかの診断を実施します。
・一次診断
図面や施工年から強度を評価します。設計図書があれば、短時間で強度を算出することが可能です。簡易的な診断なので、補強工事を計画している場合には二次診断を選択した方がいいでしょう。
・二次診断
壁や柱を踏まえた調査をしたり、コンクリートを採取して強度を調べたりします。老朽化が進行している建物は壁の一部をはがして調査します。結果の信頼性が高いので、公共建築物などの診断にも用いられている方法です。
・三次診断
壁や柱だけではなく、梁の強度も計算に加えます。特殊構造の建物や高層建築物が対象の診断です。

耐震診断の費用は?

耐震診断の費用相場を詳しく見ていきましょう。

国土交通省が提示する相場

国土交通省では、建築士法によって業務報酬基準を以下のように定めています。

設計受託契約又は工事監理受託契約を締結しようとする者は、第25条に規定する胞子ユウの基準に準拠した委託代金で設計受託契約又は工事監理受託契約を締結するよう努めなければならない。
※建築士法第22条の3の4
国土交通大臣は、中央建築士審査会の同意を得て、建築士事務所の開設者が削間業務に関して請求することのできる報酬の基準を定めることができる。
※建築士法第22条の3の4

業務報酬の具体的な算出方法には、以下の計算式が用いられます。
・業務報酬=直接人件費+直接経費+間接経費+特別経費+検査費+技術料等経費+消費税相当額
ただし、この計算方法は複雑なので、実情を考慮した「略算方法」による算出も認められています。
・業務報酬(略算)=直接人件費×2.0+特別経費+検査費+技術料等経費+消費税相当額

実際の相場

実際の費用相場は、建築物の構造や図面の有無によって大きく変わります。

図面がある場合

耐震診断には「構造図・意匠図・構造計算書」が必要です。また、法適合建物であることを証明する「検査済証」「確認済証」「建築確認申請図」も用意しなければいけません。
まずは、このような図面がある場合の診断費用を見ていきましょう。

RC造(鉄筋コンクリート造)
延床面積が1,000㎡~3,000㎡の建物の場合、約1,000円/㎡~約2,500 円/㎡が費用の相場です。1,000㎡以下の場合は、約2,000円/㎡以上が目安となります。

S造(鉄骨造)
延床面積が1,000㎡~3,000㎡の建物で、約1,000円/㎡~3,000円/㎡が費用相場です。延床面積が1,000㎡以下の場合は、約2,500円/㎡以上となります。

木造
延床面積が120㎡ほどの建物で約20万円~50万円が費用相場です。なお、木造住宅の耐震診断は、床下や天井裏の目視調査によって耐震計算を行います。

図面がない場合

耐震診断では図面が大変重要です。そのため、図面がない場合には、図面の復元作業から始めます。
図面の復元には内装材の撤去や、はつり調査(柱、梁、壁などの鉄筋径、鉄骨のサイズなどを調べる)を行わなければならないので、図面がある場合の耐震診断よりも日数と費用がかかります。図面の有無で診断費用に100万円以上の差が出ることも珍しくありません。
なお、図面は以下の方法で入手することもできます。

設計事務所に問い合わせて入手

設計事務所や不動産、前オーナー、施工会社など、さまざまな流通経路に問い合わせて探します。簡単に諦めず、徹底的に探してみることが大切です。

構造計算書が残っていればそこから復元する

構造計算書には主要構造部の部材配置と各部材の断面や配筋が記載されています。構造計算書が残っていれば、そこから図面を復元することが可能です。

耐震診断業者に復元してもらう

現地調査に基づいて設計図面を復元する方法です。具体的な復元の手順は以下となります。
1.寸法調査による概略伏図作成
2.構造部材の大きさを測定して伏図・軸組図を復元
3.部材名称の推定と設定
4.配筋探査をして部材名称の設定を確認
5.構造部材リストの復元
6.図面の復元

確認申請機関に問い合わせる

確認申請を提出していれば、「確認通知書(副)」を渡されているはずなので探してみてください。「確認通知書(副)」は、図面と一緒に綴じられていることがあります。施工会社が保管していることもあるので、確認をとってみましょう。

耐震診断を安くする方法

ここからは、耐震診断の費用を安くする方法を4つご紹介します。耐震診断の費用は高額なので、少しでも安く抑える方法を知っておきたいところです。

複数社相見積をとる

耐震診断を受ける前に複数社から相見積もりをとって、各社の費用を比較しましょう。初めから1社に絞ってしまうと費用の相場がわかりません。場合によっては、本当に必要な費用なのかどうかの判断もできなくなってしまいます。

余裕を持った納期でお願いする

納期に余裕があれば、診断業者が割引をしてくれる可能性もあります。急を要する場合は、逆に高い金額を請求されることもあるので、ゆとりある診断計画をたてましょう。

近くの会社にお願いする

耐震診断では現地調査が必須となります。そのため、遠方の業者に依頼すると診断費用とは別に出張費を請求される可能性があるのです。

補助金を活用する

国や各自治体では、建物の耐震化を促進するため、様々な補助金制度を設けています。この補助金制度を有効に活用できれば診断に要する費用を安く抑えることも可能です。

まとめ

耐震診断とは、建物の強度を調査して地震に対する安全性や倒壊・崩壊のリスクを確認する調査のことです。地震国である日本では耐震診断と耐震化は緊急の課題になっています。
耐震診断にかかる費用は建物の構造種別と面積から大体の推定は可能ですので、所有する建物の耐震性に不安がある場合はプロの業者に耐震診断をお願いしてみては如何でしょうか。

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