積雪後の降雨を考慮した応力の割り増しについて、対象建築物と割増率についても解説

建築基準法施行令82条第一号他の規定に基づく保有水平耐力計算及び許容応力度等計算の方法を定めた告示(平19国交告第594号)の第2(荷重及び外力によって建築物の構造耐力上主要な部分に生ずる力の計算方法)第三号に積雪後の降雨を考慮した応力の割り増しについての規定(ホの規定)が追加されました。
ここでは屋根形状に応じた応力の割り増し率、及び対象となる建築物について解説します。

目次

法改正の背景

平成26年(2014)年2月の関東地方を中心とした大雪における建築物倒壊等の被害の調査分析の結果として、積雪後に降雨がある場合、大スパン・緩勾配の屋根には、これまで想定していた以上の荷重がかかることが判明しました。
そうした被害の再発を防止するために、一定の条件を有する建築物には構造計算において用いる積雪荷重に、積雪後の降雨を考慮した割り増し係数を乗ずることが新たに定められました。
本告示改正は平成30年(2018年)1月に公布され、平成31年(2019年)1月に施行されました。

対象建築物

応力割り増しの対象となる建築物は以下の3つの条件を全て満たす場合です。いずれか一つでも該当しない場合は応力割り増しを見込む必要はありません。

多雪区域以外の区域にある建築物(垂直積雪量≧15cmの区域に限る)

多雪区域とは垂直積雪量が1m以上の区域等のことです。具体的な地域でいうと山陰、北陸、東北、北海道の一部の地域が該当します。多雪区域以外の区域(一般区域)では、単位荷重は積雪量1センチメートルごとに1平方メートルにつき20ニュートンであるのに対し、多雪区域では30ニュートン以上と決められています。このように多雪区域では設計で見込むべき積雪荷重が大きく元々厳しい荷重条件であったため想定以上の荷重による被害はほとんど見られなかった背景もあり、多雪区域では応力割り増しの規定は適用されないこととなっています。

屋根がRC造又はSRC造以外の場合

屋根がRC造又はSRC造の場合、コンクリートの重量による固定荷重が積雪荷重と比較して十分大きいため、積雪による被害はほとんどありません。よって屋根がRC造又はSRC造の建物では応力割り増しの規定は適用されないこととなっています。

屋根勾配が15度以下かつ屋根の最上端から最下端までの水平投影長さが10m以上

屋根勾配が急か、スパンが短い屋根は屋根に積もった雪は短時間で落雪するため、想定以上の荷重がかかることはありません。反対に屋根勾配が15度以下かつ屋根の最上端から最下端までの水平投影長さが10m以上は降雨の影響で想定以上の荷重が作用するため応力割り増しが必要となります。

割り増し率の算出

下式により計算した割り増し係数αを積雪荷重に乗じて、特定緩勾配屋根部分とそれに接続される部分について、施行令第82条各号の構造計算を行います。
α=0.7+√(dr/(ub×d))
α:割り増し係数
θ:屋根勾配
dr: 水平投影長さ、屋根勾配に応じて以下の数値を直接補間した数値
水平投影長さ10mの場合で屋根勾配2度以下の場合はdr=0.05
水平投影長さ10mの場合で屋根勾配15度の場合はdr=0.01
水平投影長さ50m以上の場合で屋根勾配2度以下の場合はdr=0.14
水平投影長さ50m以上の場合で屋根勾配15度の場合はdr=0.03

ub:屋根形状係数で√cos(1.5θ)で算出される数値
d:施行令86条第1項に規定する垂直積雪量(m)

切妻屋根、片流れ屋根

水平投影の長さ L = La、屋根勾配 θ = θa

M 形屋根、のこぎり屋根(これらが梁間方向に連続する形状の屋根を含む)

水平投影の長さ L = La、屋根勾配 θ = θa
(桁行方向の Lb 、 θb による必要はなし )

円弧屋根

水平投影の長さ L = La、屋根勾配 θ = θa

山折れ屋根

水平投影の長さ L = La、屋根勾配 θ = θ1 又は θeq
(上部の屋根勾配 θ1 又は等価勾配 θeq ※ を屋根全体の勾配とみなして計算する)

谷折れ屋根

水平投影の長さ L = La、屋根勾配 θ = θ2 又は θeq
(下部の屋根勾配 θ2 又は等価勾配 θeq ※ を屋根全体の勾配とみなして計算する)

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次