ベランダや吹き抜け部分などに設ける手摺の構造安全性については、建築基準法に設計荷重のような数値基準はなく「脱落しないようにする」と規定されているのみです。しかし、手摺は構造的不具合があると人命に関わるような事故が起こる可能性もあり、構造的に重要な部位であることは間違いありません。その背景の中で、手摺の設計荷重は建築基準法に明確な明記はないものの、複数の協会団体が安全に関する独自の基準を策定しています。
ここでは手摺の構造計算で用いる設計荷重について、各協会が定めているものを解説します。
各協会が策定する手摺の安全基準
各協会が策定する手摺の安全基準は以下が挙げられます。
-ベターリビングの「優良住宅部品評価基準 落下防止手摺」(以下BL基準)
-日本建築学会の「建築工事標準仕様書・同解説JASS13金属工事」
-日本金属工事協同組合の「手摺の安全性に関する自主基準」
-日本アルミ手摺工業会の「共同住宅用アルミ製墜落防止手摺強度のガイドライン」
手摺に作用する主な荷重は人の押す力や衝突などによる水平力なので、これら基準類の内容は基本的には同じです。設置場所などの分類や水平力をどう評価するかが若干異なります。
既製品を選択する際の注意点
前述の基準類を満たす手摺は製品化されており、使用場所など条件を満たすものを選んで使うのも一つの方法です。この場合は手摺柱脚と躯体との取り合いを確認することが重要です。
支柱をスラブへ埋め込む場合は、内部に水が溜まり劣化の原因となります。下部に排水用の孔をあけ、アンカープレートから排水孔下の高さまで詰め物をするなど水はけ対策をとる必要があります。
支柱をスラブ先端の小口の取り付ける場合は、支柱に水が溜まるのを防ぐことができます。
最終的に手摺に作用する荷重は柱脚に流れるので、柱脚の設計・施工に不備があれば、本来持っている手摺の性能は発揮できません。
またベランダなど外部で手摺子付きの既製品を使うと、手摺子が細い場合に風で共振することがあります。
共振による音鳴りや、ねじのゆるみなど2次的な問題も考えられますので、強風域に設置する場合には、メーカーに共振の可能性や対策などを確認する必要があります。さらに手摺に物干し用部材やアンテナなどを取り付ける場合は、それらの使用が想定されていない製品もあるので、構造上の安全の確認も必要です。
手摺を構造設計する際のポイント
建築基準法には手摺に関する数値的な規定がありませんので、まずは設計荷重を決める必要があります。構造の感覚をつかむためにも、体重計を手摺に押し当てで、どの程度の荷重が作用しているのか確認するのがお勧めです。
実際は衝撃的な荷重や複数人の使用なども想定する必要があるので、一般的には既に広く認知されている手摺基準類を参考にして設計荷重やたわみの許容値を決めます。
これらをもとに想定する手摺部材断面が必要な剛性と耐力を持つかを確認します。
なお手摺にかかった力を支持部へ伝えるために、留め方が重要になります。
RC造のスラブなどで手摺(支柱、手摺)を支持する場合は、手摺柱脚には大きな曲げモーメントが作用するので、これに対応するスラブ配筋が必要になります。配筋時には手摺のアンカープレートも設置しておきます。配筋後に鉄筋を切るなどしてプレートを設置すると、手摺の安全は根幹から崩れてしまうので注意が必要です。
手摺の設計荷重
鉛直荷重・たわみ
各基準の設計クライテリアは以下の通りです。
ここでLは支柱間隔とし鉛直荷重では手摺に載せる物などを想定しています。
荷重 | たわみ制限 | |
BL基準 | 1,600N/m (バルコニー用、廊下用) | 295N/mに対し、L/100以下 (バルコニー用、廊下用) |
JASS13 | 規定なし | 規定なし |
手摺の安全性に関する自主基準 | 規定なし | 規定なし |
水平荷重・たわみ
各基準の設計クライテリアは以下の通りです。
ここでLは支柱間隔とし、hは支柱の高さです。
荷重 | たわみ制限 | |
BL基準 | 1,450N/m (バルコニー用) 2,950N/m (廊下用) | 笠木:295N/mに対し、L/50以下 支柱:295N/mに対し、h/50以下 |
JASS13 | 500N/m以上1000N/m未満 | 規定なし |
手摺の安全性に関する自主基準 | 1,225N/m (125型:バルコニー・廊下) 980N/m (100型:階段・廊下) | 規定なし |
まとめ
手摺の構造計算で用いる設計荷重について解説しました。既製品の手摺についてはグレードに適した製品を選択することで原則は想定した安全性が得られるようになっていますが、設計者自ら手摺の構造安全性を検証する場合は、メーカーや協会等で設定している基準等を参考にして適切に評価する必要があります。