平成13年国土交通省告示第1024号の一部が改正(令和4年3月31日公布・施行)され、鉄筋コンクリート造等の部材と構造耐力上主要な部分である部材との接合に用いるあと施工アンカーの接合部の許容応力度及び材料強度を指定できるようにしました。つまり新築建築物にもあと施工アンカーを使用することができるようになりました。建築基準法における構造関係規定は厳しい方向に改定されることが多いですが、本件の改定は緩和の方向であったことが注目されました。本記事ではこちらについて詳しく解説したいと思います。
あと施工アンカーとは
「あと施工アンカー」とは、コンクリート打設後の硬化後に、コンクリートに対して穿孔を行いその後アンカーボルトを挿入し、アンカーボルトと孔壁の隙間に樹脂やモルタルを充填し固着させる工法となります。それに対して一般的なアンカーボルトは「先付けアンカー」とも呼ばれ、コンクリートを打設する前にアンカーボルトを先に設置し、コンクリート中に埋め込む工法となります。
建築基準法における「あと施工アンカー」の取扱いの変遷
今までにあと施工アンカーに関わる規定は以下に記す時系列で改定されてきました。
平成18年2月27日以前
・「あと施工アンカー」は、構造計算を要する構造耐力上主要な部分に使用する場合、耐震改修促進法に基づく耐震改修においてのみ使用可能。
・新築、増改築等の際に、建築基準法上の構造計算に考慮することは不可。
平成18年2月28日以降
・平成17年に発覚した構造計算偽装問題を契機に、既存建築物の補強に用いる「あと施工アンカー」を告示(平成13年国土交通省告示第1024号)に位置付け(平成18年2月28日施工)。
・これにより、国土交通大臣が強度(せん断及び引張の短期許容応力度と材料強度)を指定した「あと施工アンカー」については、既存建築物の補強用に限り、建築基準法上の構造計算に考慮することが可能に。
・国土交通大臣による強度の指定については、「「あと施工アンカー・連続繊維補強設計・施工指針」について(技術的助言)」(平成18年4月10日(同年5月8日、7月7日一部改正)付け建築指導課長通知)に基づき運用。
令和4年3月31日以降
・既存建築物の補強用に限定されない、構造部材への「あと施工アンカー」の適用拡大の要望を受け、建築基準整備促進事業等における技術的検討を踏まえ、同告示を改正(令和4年3月31日施工)。
・改正後の同告示に基づき、国土交通大臣が強度を指定した「あと施工アンカー」に限り、補強以外の用途への使用が可能に。
・同告示の施工にあわせて、技術的助言を発出し、強度指定の取扱いについて周知。
令和4年3月31日の法改正後に、あと施工アンカーを使用できる範囲が拡大する
上記の変遷についてまとめると、法改正以前では
「既存の鉄筋コンクリート造等の部材とこれを補強するための部材との接合に用いるもの」
から令和4年3月31日の法改正後に
「鉄筋コンクリート造等の部材と構造耐力上主要な部分である部材との接合に用いるもの」
へ、適用可能な建築物及び使用できる部位を拡大されたということです。
具体的な例を挙げると、木造における土台を固定するためのアンカーボルトや鉄骨階段を固定するためのアンカーボルトにあと施工アンカーを使用することは法改正以前では認められませんでしたが、法改正以降は認められるようになりました。施工不備によりアンカーボルトの設置がコンクリート打設前に行われなかった場合、法改正以前ではアンカーボルトの設置のために周囲のコンクリートをはつらないといけませんでした。それが法改正以降は、コンクリートをはつることなくあと施工アンカーによって代替することができるようになりました。
その点では特に施工者にとってメリットのある改正と言えるでしょう。
あと施工アンカーを法改正後の規定に従い使用する場合の注意点
一方で法改正後の規定に従いあと施工アンカーを使用することにおいては注意すべき点がいくつかあります。
許容耐力(許容応力度)が規定されていないものは使用できない
色々な種類のあと施工アンカーが各メーカーより発売されており、ほぼ全てのあと施工アンカーは強度(「最大荷重」や「破断耐力」)の指定がありますが、長期許容耐力(長期許容応力度)と短期許容耐力(短期許容応力度)の指定がない製品を使用することはできません。法改正後の規定においてはあくまでも
長期に生じる応力(応力度)<長期許容耐力(長期許容応力度)
短期に生じる応力(応力度)<短期許容耐力(長期許容応力度)
を満たすことが必要であり、許容耐力(許容応力度)が規定されていない製品はこちらの評価ができないためです。
一般的な先付けアンカーと比較してあと施工アンカーは品質・強度共に劣る
あと施工アンカーは先付けアンカーと比較してコンクリートへの埋め込み深さが小さくなります。また先付けアンカーは周囲の鉄筋の内側に設置されることで理論上の耐力評価式を上回る強度が発現されます。またあと施工アンカーはコンクリート硬化後に設置されるものであるので、施工時に既存の鉄筋を傷付ける場合もあり、結果として躯体の品質を損ねる可能性があります。 従って同じ径であればあと施工アンカーは先付けアンカーよりも品質・強度共に劣ることは間違いありません。
まとめ
令和4年3月31日より構造耐力上主要な部分にもあと施工アンカーの使用が可能となり、アンカーボルトの設計・施工における選択肢が増えました。しかし従来の工法である先付けアンカーと比べるとあと施工アンカーは品質・強度共に劣ります。従って今まで通り先付けアンカーでの設計・施工を前提とした計画を立て、やむを得ない場合のみにあと施工アンカーの使用を考慮に入れる方針をとること望ましいと言えます。