既存建物を増改築する際、通常であれば既存部分も含めて現行法の構造計算基準に適合させなければいけません。ただ古い構造計算基準のもと設計された既存の建物を、現行法の構造計算基準に適合させることはほぼ不可能であることをふまえ、2016年に小規模一体増改築に関する緩和が加わりました。
(国土交通省改正告示第566号) ここでは小規模一体増改築を行う際に必要な構造検討について解説します。
小規模一体増築とは
小規模一体増築とは、増築部分の面積が既存部分の面積の1/2以下で、かつ「架構を構成する部材」の追加や変更をしない増改築と定義されます。この時間柱や小梁は架構を構成する部材には含まれません。つまり、吹き抜け部分の増床や階高の高い室内での中間階の設置、屋外バルコニーの居室化などは小規模な増改築と見なせます。
なお架構を構成する部材を変更する場合でも、強度や耐力が上昇する変更は小規模増改築に含まれます。
小規模一体増築を行う際に必要な構造検討について
対象となる建物が旧耐震基準(昭和56年(1981年)5月31日までに確認済証が発行されている建物)で建設された場合と新耐震基準で建設されている場合とで対応が異なります。それぞれについて確認していきましょう。
対象となる建物が旧耐震基準で建設された場合
建築物全体について耐震診断を行い、合格となることを確認する必要があります。もちろん増改築に伴い荷重が増加した場合はその分を考慮して診断を行う必要があります。
対象となる建物が新耐震基準で建設された場合
建築物全体について新耐震基準に適合していることを確認する必要があります。
ただし現行法の構造計算基準に適合させる必要はありません。
既存の構造計算書が残っている場合は1から計算書を作成する必要はなく、簡易な方法で対応することが可能です。
以下その手順について解説します。
重量の比較
増改築の前と後で重量の増加分を算出します。この時床の増加に伴う重量の増分の他、仕上げの変更に伴う重量の増分も考慮する必要があります。
荷重の増加分と部材の検定比とを比較
増改築後の長期荷重の増加分と地震力の増加分を算出し、各部材の検定比とを比較し荷重の増加分の逆数よりも部材の検定比が小さい場合は許容耐力を満足することが言えます。
保有水平耐力についても同様に、荷重の増加分よりも保有水平耐力の余裕度の方が大きい場合は増改築後でも保有水平耐力を満足することが言えます。]
まとめ
既存建物を増築する際、小規模一体増改築に相当する形をとることで、構造検討が非常に容易になりました。それでも第三者が作成した構造計算書と構造図の内容を完全に理解するための専門的な知識も必要になり、既に完成している建物の部材変更はできない事情もあり、新築を一から設計することとは別の難しさがあるので注意は必要です。