日本の地形、地質は非常に多様・複雑で堆積地盤は土性・地層の厚さなどが複雑に変化していることが一般的です。よって敷地が広大である場合に限らず、東京湾岸部に沖積層基底地形のように層構成が複雑に傾斜してる地域や局所的に地層構成や層厚が複雑に変化している場合には、調査本数が少ないと地盤の特性を十分に把握できない可能性があります。従って、危険側の設定に陥ったり、設計用地盤定数を安全側に評価しすぎてコストが必要以上にかかることのないよう、適切なボーリング本数を確保することが必要です。
以上をふまえ、地盤調査におけるボーリングの適切な本数、深さについて本記事で解説します。
なお地盤調査の内容がスウェーデン式サウンディング試験で足りるような小規模な建築については今回対象外とします。
ボーリングの適切な本数について
建築基準法においては、地盤に関する信頼性を定量的に評価することは難しいという判断のもと、明確な基準は示されていません。
「建築基礎設計のための地盤調査計画指針」(日本建築学会)において、調査本数を検討するための目安として以下の提案がされており、調査本数を検討するための目安となります。
ボーリングの適切な深さについて
一般の建物で直接基礎の場合
支持層として想定される地層が確認できる深さまで行う必要があります。ただし以深に沈下の原因となる地層が現れることが想定される場合は、沈下の原因となる地層が現れるまで行う必要があります。
事前に地層構成の想定ができない場合は、べた基礎スラブ短辺長さの2倍以上または建物幅の1.5倍~2.0倍が目安になります。
一般の建物で杭基礎の場合
一般的には沖積層全層かつ支持層として想定される地層が5~10m以上確認できる深さまで行う必要があります。支持杭の場合は、杭先端深さより杭先端径の数倍の深さまで行う必要があります。この時一般には2~3倍とすることが多いですが、採用予定の杭工法の先端支持力の評価方法や形状に留意して設定する必要があります。ただし、これ以深に軟質な層が現れることが想定される場合は、当該層の有無が確認できる深さまで行う必要があります。
支持層の目安は砂質土、礫質土ではN値50(または60)以上、粘性土では20~30以上とすることが多いですが、地盤条件や建物の要求性能、想定される複数の基礎形式を勘案して設計物が適切に判断します。
一般の建物で直接基礎と杭基礎両方の可能性がある場合
敷地近辺の地盤の情報に乏しく、液状化のリスクの程度も不明な場合は、ボーリング深さ25m以上は行う必要があります。
25mの根拠としては、液状化対象層はGLから20mの範囲までであり、液状化が生じる地盤であっても杭先端をGL-20m以下とすれば支持力は液状化の影響を受けません。
一方杭先端位置でのN値だけでなく、5m程深い地盤でのN値も支持力に関わってきますので液状化対象層に相当する20mに5mを加えた25mは必要最低限の調査深さとなります。
時刻歴応答解析を行う場合又は告示免震とする場合
時刻歴応答解析を行う場合、告示免震とする場合は地盤調査の項目としてPS検層を行う必要があります。よって直接基礎、杭基礎に関わらず工学的基盤を5~10m以上確認できる深さまで行う必要があります。ただし以深に軟質な層が現れることが想定される場合は、その下の工学的基盤同等の層が確認できる深さまで行う必要があります。
狭い範囲で大きな傾斜があった実例
以下は敷地がさほど大きくないにも関わらず支持層の傾斜が大きく、杭施工時において杭長を延長した例になります。この付近が建設地となる場合は注意が必要です。
敷地の住所 | 建物規模と地盤調査内容 | 施工時での対応 |
東京都台東区蔵前4丁目 | 11m×7m程の建築面積に対し中央1箇所のボーリング調査にて杭の設計を行った。 | GL-15m付近の支持層の傾斜により、一部の杭について設計杭長からの延長が必要となり、最大4mの延長を行った。 |
東京都江東区東陽5丁目 | 15m×8m程の建築面積に対し中央1箇所のボーリング調査にて杭の設計を行った。 | GL-40m付近の支持層の傾斜により、一部の杭について設計杭長からの延長が必要となり、最大3mの延長を行った。 |
神奈川県川崎市川崎区小田5丁目 | 23m×8m程の建築面積に対し中央1箇所のボーリング調査にて杭の設計を行った。 | GL-30m付近の中間層を支持層として設計していたが、一部の杭において中間層のN値の上昇が見られず下部層まで貫通した。結果として最大10mの杭の延長を行った。 |
まとめ
適切な基礎の設計を行う上で、ボーリングの適切な箇所数と調査深さを設定することは非常に重要です。初期費用を抑えるために地盤調査の内容を少なくする方向に向かうことがどうしてもありますが、適切な地盤調査を行わないと基礎工事の費用が上がり結果として全体の費用が高くつく場合もあります。
地盤調査を行う前に建設地の状況をできる限り把握し、適切な地盤調査の計画を立てることが重要です。