震災や変化し続ける社会情勢に伴って、建築基準法も見直されてきました。耐震診断とは、建築基準外の建物や地震への強度不足の建物の耐震性を調べる作業ですが、費用の相場がわかりづらく、検討できずにいる人も多いでしょう。耐震診断や耐震改修工事には、知らないと損をする助成金や補助金、減税制度などがあります。今回は、住宅の耐震診断費用の相場や補助金などについて解説していきます。
耐震診断とは
耐震診断とは、旧耐震基準で設計された既存建築物における耐震性の有無を確認する作業です。現行の構造基準で耐震性能の保有を測ることで、具体的な耐震補強案や耐震改修工事費用の検討が必要か否かがわかります。現行の耐震基準が定められている「建築基準法」は、社会情勢や天災による被害状況によって都度見直されています。現行の耐震基準は、「中規模地震(震度5強程度)では軽微な損傷、大規模地震(震度6強から7に達する程度)でも倒壊は免れる」という基準内容が設けられています。現行の耐震基準で建てられた建物においても著しい劣化などが懸念される場合には、耐震診断の検討が必要になるケースがあります。
木造住宅の耐震診断
木造住宅の耐震診断には3つの方法があります。それぞれの診断方法の詳細を以下で紹介します。
・誰でもできるわが家の耐震診断
住宅の耐震診断を自分で行えるおおまかで簡易的な診断方法です。国土交通省住宅局の監修する「誰でもできるわが家の耐震診断」は、平屋および2階建ての一戸建て木造住宅向けの耐震診断方法です。10個ある問診では、「建てたのはいつですか?」「大きな災害に見舞われたことはありますか?」「痛み具合や補修・改修歴について」などの内容に答えます。合計点によって診断結果がわかります。自分で行うチェックなので、補強設計には進めません。
・一般診断法
一般診断法とは、専門家が調査に必要な情報が記載された図面を使用し目視で診断する方法です。基本的に破壊検査をすることはありません。対象は平屋〜3階建ての一戸建て木造住宅で、補強設計へも進められる一般的な診断法となっています。「Iw値(経年や形状などを考慮した上で算出される建物の粘り強さにあたる構造耐震指標)」を用いて耐震性を評価します。「Iw値」は、『Pd(家の保有耐力)/Qr(耐震のために必要な耐力)』の算出式により導き出されます。
・精密診断法
精密診断法とは、主に伝統工法(釘などを使わない建築工法)で建てられた建築物の診断を行う高度な診断法です。一般診断法で改修の必要性の高さを示唆された場合にも用いられます。必要時には天井や壁を剥がすなどといった破壊検査が行われ、建築物内部の構造まで確認します。高度な知識や技術、経験が求められる精密診断法は、耐震改修が必要かどうかを見極める最終判断ともいえるでしょう。上記の2つに比べて、時間や費用も膨大にかかります。
非木造住宅(鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄骨造)の耐震診断
非木造住宅の耐震診断には、1次~3次診断法まで3つの種類があります。それぞれの診断方法の詳細を以下で紹介します。
・1次診断法
現地調査は行わず、柱や壁におけるコンクリートの断面積から耐震性の確認を行う診断法です。壁式鉄筋コンクリート造等壁が多い建物に多く用いられます。
・2次診断法
現地調査によって壁と柱のコンクリート強度や鉄筋量を用いた計算を行い、耐震性を測る診断法です。1次診断法よりも耐震診断結果の信頼性が高い2次診断法は、旧建築基準法で建てられた建築物への診断法として推奨され、学校や庁舎など公共施設でも用いられています。2次診断の結果に基づいて、補強設計および補強工事・耐震改修に進みます。
・3次診断法
3次診断法は壁・柱のほかに梁への影響も計算対象に加え、断面積・鉄筋・建物の保有水平耐力を現行建築基準法とほぼ同じレベルで測ることが可能な方法です。耐震性能が架構構造で決まる建物に向いている診断法で、ペンシルビルなど高層建築の耐震診断法として用いられています。
耐震診断の費用項目
耐震診断にかかる費用は、診断料金だけではありません。以下で解説する4項目でも費用がかかるケースがあります。
・図面作成料
耐震診断事業者に図面を作成してもらうと、図面作成費用がかかります。耐震診断を行う際には、建物の概要情報や必要資料を取得するために事前に予備調査を実施します。資料の中でも住宅の耐力壁がわかる構造図が特に重要で、ない場合には住宅各部の構造・寸法を確認し図面作成作業が必須となります。
・破壊調査に伴う工事費
耐震診断を安全に行うために必要な概要や資料に不備がある場合には、壁の一部の破壊によって地震の力に抵抗できる耐力壁を探すケースもあり、解体と復旧に伴って工事費用が発生します。なお、精密診断法でも破壊調査に伴う工事費は発生します。
・耐震改修に伴う工事費
予備調査・現地調査での情報を精査し、耐震計算を行った結果、耐震改修が必要な場合には耐震改修工事を検討することになります。工事費用は解体箇所の多さや多さ、工事の難易度によって異なります。将来的に大型リフォームを考えている人は耐震改修工事とタイミングを合わせると、時間的にも経済的にも賢く行えるでしょう。
・耐震基準適合証明書の発行手数料
「耐震基準適合証明書」とは、耐震改修工事実施後に住宅ローン減税を利用する場合、工事の証明として必要なものです。発行するには手数料が発生するので覚えておきましょう。
耐震診断費用の相場
現地調査の内容によって異なる耐震診断法の費用相場について、住宅別に見ていきましょう。
木造住宅の耐震診断費用の相場
延床面積がおおよそ120㎡で、在来軸組構法で建てられた木造住宅について、耐震費用の相場を紹介します。診断法別に以下のようになっています。
・誰でもできるわが家の耐震診断
国土交通省住宅局の監修する簡易的な耐震診断で、自分で行えるため費用はかかりません。
・一般診断法
専門家の目視による調査・耐震計算にかかる費用相場は10万円〜40万円です。
・精密診断法
診断方法の精度や住宅の所在する自治体によって費用は異なりますが、おおよそ15万円~45万円(関東地方・関西地方の場合)が相場となっています。ただし、竣工時に行う図面完了検査を取得していない場合には、建物の実測による図面作成費用も発生します。
鉄筋コンクリート造の耐震診断費用の相場
延床面積が1,000㎡~3,000㎡の鉄筋コンクリート造の耐震診断費用の相場は、おおよそ1,000円/㎡~2,500 円/㎡です。また、延床面積が1,000㎡以下の建築物における耐震診断費用は、おおよそ2,000円/㎡以上となっています。ただし、これらの費用は確認審査機関による完了検査済みで、竣工時の一般図・構造図の存在確認に問題がない場合にのみ適用されます。建物の構造図などがなければ図面復元の必要があるため、現地調査項目の増加に伴い図面作成費用もかかります。
鉄骨造の耐震診断費用の相場
延床面積が1,000㎡~3,000㎡の鉄骨造の耐震診断費用の相場は、おおよそ1,000円/㎡~3,000円/㎡です。また、延床面積が1,000㎡以下の建築物における耐震診断費用は、おおよそ2,500円/㎡以上となっています。こちらも竣工時の一般図・構造図の存在確認ができ、確認審査機関による完了検査済みの建物である証明が可能な場合です。構造図などがない場合には、図面復元のための調査項目増加により、上記の㎡単価を超えるでしょう。
耐震診断や耐震改修に利用できる補助金や制度
耐震診断や耐震改修に利用可能な補助金や制度があります。各自治体によって異なる補助金や制度について、以下で詳しく紹介していきます。
補助金・助成金
全国におけるほとんどの自治体で、耐震診断・補強設計・耐震改修工事などの実施時に利用可能な補助事業が設けられています。各自治体によって、対象の建築物の築年数や状態などによる利用可能な条件は異なります。制度が変わることもあるので、詳細については該当の自治体に問い合わせたり、国土交通省のホームページを確認したりするといいでしょう。
減税制度
減税制度は「耐震改修促進税制」という名称で、2006年に耐震改修促進のため創設されました。減税制度を利用すれば、耐震診断・耐震改修にかかる費用を自己資金から支払っても所得税の還付が受けられます。ローンを組まなくても一定要件を満たせば、所得税の控除や固定資産税の減額などといった措置を受けられます。減税制度には以下の2種類があります。
1.所得税額の特別控除
所得税額の特別控除を受けられる条件は以下の3つです。
・1981年6月以前に建築された建築物であること
・日本建築防災協会の発行する「木造住宅の耐震診断と補強方法」に基づいた診断のもと、診断結果「lw値が1.0未満」から「lw値が1.0以上」にするための建築物の改善工事であること
・税務署への確定申告に応じること
まずは住民票のある自治体で耐震改修証明書を取得しましょう。国土交通省の定める耐震改修に関する特別措置に則って諸手続きが行われたら、改修工事が完了した年の所得税額から一定額が控除されます。(適用期限:令和5年12月31日)
2.固定資産税額の減額措置
固定資産税額の減額措置を受けられる条件は以下の5つです。
・1982年1月1日以前に建築された建築物であること
・工事完了後の床面積が、50m²以上~280m²以下であること
・日本建築防災協会の発行する「木造住宅の耐震診断と補強方法」に基づいた診断のもと、診断結果「lw値が1.0以上」に建築物を改善したことが証明できること
・耐震改修工事完了日から3か月以内の自治体税務課などへの申告
・耐震改修工事にかかった費用が50万円以上であること
まずは建築士事務所登録のある事業所で、証明書を発行してもらいましょう。国土交通省の定める耐震改修に関する特別措置に則って諸手続きが行われたら、1戸あたり120㎡相当分までの固定資産税が半額になります。減税期間は1年です。
融資制度
住宅金融支援機構では、耐震改修にかかる費用に対する融資制度があります。自身が住む自治体に耐震改修費用における支援制度がない場合には、融資を利用してもいいでしょう。
融資の条件は以下のようになっています。
・工事の目的が耐震改修または耐震補強であること
・総返済負担率について年収が400万円未満の場合は30%以下、400万円以上の場合は35%以下であること
・工事完了後の住宅床面積が50㎡(共同建の場合は40㎡)以上であること
・基本融資額の上限は1,000万円(ただし、住宅部分の工事費80%が限度である)
金利は住宅金融支援機構・支払い方法・返済期間によって異なりますが、1.02%~2.15%程度のケースが一般的です。返済期間は20年以内となっています。
耐震診断の費用相場・補助金などへの理解を深めよう
耐震診断・耐震改修は各自治体で対象となる建築物や費用、支援が異なります。住宅の築年数や構造から地震への耐力・強度を測ることは、専門家でなければ難しいでしょう。各自治体の相談窓口では工事事例や具体的な技術紹介だけではなく、知っておくと得な補助金や制度についてなども情報提供しています。現行の建築基準法に基づいた調査によって自身や家族の住む住宅の安心・安全を守るために、今一度耐診断について考えてみてはいかがでしょうか。