リップ溝形鋼(軽量C形鋼)の許容曲げ応力度

リップ溝形鋼とは、Cチャンネルとも呼ばれる、断面がC字型の薄肉の鋼材のことです。軽量かつ高強度であるため、建築分野の様々な用途で使用されています。
しかし建築基準法施行令において、H形・溝形・BOX形・〇形の断面については許容曲げモーメントの算定式は明確に示されていますが、リップ溝形形状については示されていません。本記事では、「軽鋼構造設計施工指針・同解説」(日本建築学会)を参考に、リップ溝形鋼とは何かというところから、許容曲げ応力度の算出方法について解説します。

目次

リップ溝形鋼とは

リップ溝形鋼とは、上図のような、C字型の断面形状を持つ薄肉の鋼材のことです。その形状から、「Cチャンネル」とも呼ばれます。軽量である割に強度が高く、加工性や施工性に優れていることから、重量鉄骨造の根太・母屋や軽量鉄骨造の構造体などに用いられています。ただし、薄肉のために溶接が難しく、ボルトで接合することが多くなっています。

リップ溝形鋼は、H字型やL字型、C字型などの様々な断面形状を持つ「形鋼(かたこう)」と呼ばれる鋼材の一種です。その形鋼の中でも、肉厚が薄い「一般構造用軽量形鋼」に分類されます。その軽量形鋼の中には、軽溝形鋼や軽山形鋼、ハット形鋼などがありますが、リップ溝形鋼は、軽溝形鋼に断面が唇形状となるような、「リップ」と呼ばれる部位が付いた断面形状となっています(下図参照)。このリップは補強材として役割があり、リップ溝形鋼は、同一の高さや幅、板厚の軽溝形鋼に比べて、断面性能が高くなっています。

リップ溝形鋼と軽溝形鋼との形状比較

リップ溝形鋼とCチャンネルの違い

リップ溝形鋼とCチャンネルに違いはなく、同じ鋼材のことを示しています。JIS規格で規定されているように、リップ溝形鋼が正式名称で、この鋼材のことは、鋼材メーカーでもリップ溝形鋼と呼びます。
一方Cチャンネルは、一般的に形鋼がチャンネルと呼ばれていることと、リップ溝形鋼の断面形状がC字型であることから用いられている呼び名です。建築分野では、Cチャンネルと呼ぶことが一般的となっています。

リップ溝形鋼の許容曲げ応力度

以上をふまえ、リップ溝形鋼の許容曲げ応力度を算出します。
横補剛のない梁が強軸まわりに曲げを受ける場合の長期応力に対する許容曲げ応力度は以下の通りです。なお横補剛が十分で横座屈のおそれのない場合、弱軸まわりに曲げを受ける場合の許容曲げ応力度は許容引張応力度と同値となります。

-λy≦85√Cbの場合

fb=(1.1-0.6×F/(π2×E×Cb)×λy2)×ft

かつfb≦ft

-λy>85√Cbの場合

fb=1/3×π2×E/λy2×Cb

ここで

fb:許容曲げ応力度

E:ヤング係数(鉄骨より205000N/mm2)

λy:lb/i

lb:支点間距離

i:ウェブに平行な軸まわりの全断面の断面2次半径

Cb:1.75-1.05(M2/M1)+0.3(M2/M1)2 (ただし2.3以下)

M1,M2はそれぞれ座屈区間端部における小さい方および大きい方の強軸まわりの曲げモーメントになります。(M2/M1)は単曲率の場合正、複曲率の場合負となります。区間中間のモーメントがM1よりも大きい場合にはC=1となります。

具体的な計算例

前述の許容曲げ応力度の耐力式をふまえ、以下の条件下でリップ溝形鋼の曲げ耐力の検証をしてみましょう。また建築基準法で規定されている溝形鋼の許容曲げ応力度

fb =89000/(lb×h)×Af

fb:許容曲げ応力度

lb:支点間距離

h:梁せい

Af:フランジ断面積

により算出した数値との差異についても検証します。

計算例1

-固定荷重:300N/㎡(母屋自重含む)

-母屋間隔:910mm

-母屋規格:C-100×50×20×2.3

-スパン3125mm

ウェブに平行な軸まわりの全断面の断面2次半径i=19.2mmより

λy =3125/19.2=163

λy>85√Cbより(Cb =1)

長期許容曲げ応力度fb=1/3×3.142×205000/(1632)=25.3N/mm2

断面係数16.1×103より

長期許容曲げモーメント=25.3×16.1×103=0.41kNm

固定荷重は300N/㎡

母屋間隔910mmより

線荷重は0.3×0.91=0.273kN/m

強軸周り曲げモーメント=0.273×3.1252/8=0.33kNm<0.41kNm…OK

溝形鋼として計算した場合

参考に通常の溝形鋼として許容曲げ応力度を算出した場合の結果も記します。

長期許容曲げ応力度fb=89000/(3125×100)×2.3×50=32.3N/mm2

リップ溝形鋼の曲げ耐力式で算出した25.3N/mm2を上回り、溝形鋼として計算した場合は危険側の評価となることが分かります。

計算例2

-固定荷重:4750N/㎡(母屋自重含む)

-母屋間隔:303mm

-母屋規格: C-150×75×20×3.2

-スパン3000mm

ウェブに平行な軸まわりの全断面の断面2次半径i=27.4mmより

λy =3000/27.4=110

λy>85√Cbより(Cb =1)

長期許容曲げ応力度fb=1/3×3.142×205000/(1102)=55.6N/mm2

断面係数48.9×103より

長期許容曲げモーメント=55.6×48.9×103=2.72kNm

固定荷重は4750N/㎡

母屋間隔303mmより

線荷重は4.75×0.303=1.44kN/m

強軸周り曲げモーメント=1.44×3.02/8=1.62kNm<2.72kNm…OK

溝形鋼として計算した場合

参考に通常の溝形鋼として許容曲げ応力度を算出した場合の結果も記します。

長期許容曲げ応力度fb=89000/(3000×150)×3.2×75=47.4N/mm2

リップ溝形鋼の曲げ耐力式で算出した55.6N/mm2を上回り、溝形鋼として計算した場合は安全側の評価となることが分かります。

まとめ

リップ溝形鋼の許容曲げ応力度の算出式について解説しました。

λyが大きい程、溝形鋼として計算した場合の方が許容曲げ応力度の数値が大きくなり危険側の評価となり、数値の差異も無視できない程大きいことが言えます。

従ってリップ溝形鋼の断面算定を行う際は、溝形鋼として簡略的に計算するのではなく、「軽鋼構造設計施工指針・同解説」(日本建築学会)に従い精算する必要があると言えます。

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