建築年が1981年以前のマンションは旧耐震基準で建てられた可能性があるため、耐震診断を行い、耐震性が不足していれば補強工事が必要になります。分譲マンションでは耐震診断と補強に管理組合の決議が必要なため、費用等の問題により先送りにされることも珍しくありません。しかし、マンションの資産価値と安全性を保つには耐震診断が必須です。
耐震診断が必要なマンションの条件は?
1981年以前に建築されたマンションは新耐震基準を満たしていない恐れがあり、耐震診断の実施が必要です。賃貸か分譲かは問わず、鉄筋コンクリート造または鉄骨造のマンションすべてが該当します。また、一定の条件を満たすマンションには耐震診断が義務付けられています。
賃貸マンションはオーナーが対応するため、入居者による手続きは不要です。一方で分譲マンションは原則として住民自身が所有者なので、合意形成に基づいて耐震診断しなければなりません。
1981年以前に建ったマンションは耐震診断が必要
1981年に改定された新耐震基準が求める要件は、震度6強~7程度の地震でマンションが倒壊しないことです。1981年6月1日以降に建築確認済証が交付されたマンションなら、新耐震基準に適合している可能性が高いといえます。
一方で、1980年以前に建築されたマンションは新耐震基準を満たしていませんし、建築年が1981年から1982年頃のマンションも一部は旧耐震基準です。この時期に建てられたマンションには耐震診断が求められますし、場合によっては耐震補強工事をする必要が生じます。
なお、旧耐震基準で建てられた建築物は、マンションに限らず耐震診断を行う努力義務が課せられています。しかし、後述の一部マンションに該当しなければ、耐震診断を行わなくても罰則はありません。
一部のマンションでは耐震診断が義務化されている
都道府県または市町村は、地震災害時に通行を確保しなければならない道路を定めています。それらの道路に面する、高さが一定以上のマンションには、2016年12月31日までに耐震診断を行って自治体に報告する義務が課せられています。
期日までに耐震診断の報告がなければ自治体から提出命令が出され、従わなければ最高100万円の罰金が科せられる可能性があります。お住まいのマンションに耐震診断が義務付けられている場合は、命令が出る前に耐震診断して報告を行いましょう。
マンションの耐震診断の現状
古いマンションと周辺の安全性を確保するためには耐震診断が欠かせませんが、耐震診断が必要なマンションの多くで実施されていないのが実情です。理由としては、耐震診断に費用がかかることや分譲マンションでの合意形成が難しいことが挙げられます。
しかし、実際に地震が発生した際はマンションがより甚大な被害を受けるため、なるべく早く耐震診断を行わなければいけません。
東京で耐震診断が必要なマンションは18.5%
2013年3月に東京都都市整備局が発表した「マンション実態調査結果」によると、東京都内には133,188棟の分譲・賃貸マンションがあります。そのうち18.5%の24,694棟が1981年以前の旧耐震基準で建てられていました。
回答率が25.6%と低いため単純比較できませんが、都内の全マンションを対象に行ったアンケート調査では、旧耐震基準で建てられた分譲マンションの82.9%で耐震診断が実施されていませんでした。
参考:マンション実態調査結果|東京都都市整備局
https://www.mansion-tokyo.metro.tokyo.lg.jp/pdf/03jittai-chousa/03jittai-chousa-00.pdf
耐震診断が必要なマンションの63.7%が未実施
全国規模の調査でも、旧耐震基準のマンションで耐震診断が行われていない実態がうかがえます。国土交通省の「平成30年度(2018年度)マンション総合調査結果」では、旧耐震基準のマンションのうち耐震診断を行ったのは34.0%にとどまり、63.7%が未実施でした。
2013年に公表された東京都内限定の調査よりは実施率が高いものの、依然として3分の2のマンションで必要な耐震診断が行われていないことがわかりました。
参考:平成30年度マンション総合調査結果からみたマンション居住と管理の現状|国土交通省
https://www.mlit.go.jp/common/001287570.pdf
旧耐震基準でも40.8%のマンションには耐震性がある
前述の国土交通省の調査によると、耐震診断の実施によってマンションの安全性が確認されたケースもあります。耐震診断をした旧耐震基準のマンションのうち、40.8%は現行の耐震基準を満たしており、耐震改修工事が不要だとわかりました。
耐震性がないマンションも同率の40.8%ありましたが、そのうち耐震改修を実施したのは38.1%で、改修予定がないマンションも同じく38.1%です。耐震診断によってマンションの耐震性に問題があるとわかったのにもかかわらず、対策を講じず放置していることになります。
なお残りの18.4%は「さらに詳細な耐震診断を実施する必要があると判定された」という結果でした。
マンションの耐震診断では何をする?
実際に耐震診断が行われるのは、賃貸マンションでは所有者の決定後、分譲マンションでは管理組合等での決議後です。耐震診断を行う業者が設計図書等の書類を確認した上で現地調査を行い、マンションの耐震性の有無を確認します。
耐震診断には最も精密な三次診断から簡易的な一次診断までの3レベルがあります。1981年以前の旧耐震基準で建てられたマンションの場合は、一次診断と二次診断を行うのが一般的です。
マンションの設計図書を確認し現地調査を行う
耐震診断では、まず一次診断として担当者が設計図書などの確認を行います。分譲マンションの耐震診断に必要な設計図書と構造計算書は、販売会社とマンション管理組合が保管していることが一般的です。設計図書か構造計算書のどちらか一方があれば耐震診断を行えます。
問題は、マンション管理組合が設計図書と構造計算書の両方を保管しておらず、販売会社とも連絡が取れない場合です。耐震診断の現地調査では実際のマンションと設計図書を照らし合わせて耐震性の有無を確認しますが、設計図書がなければこの照合調査を行えません。
マンションの設計図書がなくても、耐震診断業者が現地調査する際に復元できますが、その分費用がかかります。書面確認と現地調査の後に二次診断として行われるのが、壁・柱の寸法調査と、コンクリート採取による強度や中性化に関する試験です。
耐震性不足の場合は耐震補強が必要になる
耐震診断を行ってマンションの耐震性不足が判明した場合は、耐震補強工事または建て替えが必要になります。建て替えには多額の費用と長い期間を要し、住民の仮住まいも必要になるため、耐震補強工事の実施が現実的です。
マンションの耐震補強工事には新たな壁や鉄骨プレースの増設などの方法があり、マンションの構造や耐震診断の結果によって決定されます。
マンションの耐震診断実施に必要な手続きと費用
賃貸マンションならば所有者の一存で耐震診断を行えますが、問題は分譲マンションの場合です。多くの分譲マンションでは工事などを行う際に管理組合の決議が必要で、これは耐震診断にも当てはまります。
マンションでの耐震診断費用は大規模修繕より安いため、さほどネックになりませんが、実際に診断を行うまでの意思決定にハードルがあるといえます。
分譲マンションでは耐震診断実施に管理組合の決議を要する
分譲マンションで行う耐震診断の費用は管理費または修繕積立金から拠出するため、管理組合の総会を開いて決議する必要があります。定期総会までに時間がある場合は、臨時総会の開催も可能です。
マンション管理組合規約に特段の定めがない限りは、区分所有者および議決権の2分の1以上の賛成で議案が成立します。修繕積立金の用途が限定されていて耐震診断に拠出できず、規約変更が必要ならば、4分の3以上の賛成が必要です。
マンションの耐震改修にも決議が必要
耐震診断の結果、分譲マンションの耐震改修工事または建替えが必要になった場合も、管理組合総会での決議が必要です。ただし、建替えには区分所有者および議決権の5分の4以上の賛成が必要で、通常は数億円の費用がかかるため、耐震改修工事を選ぶのが現実的です。
耐震改修の実施も耐震診断と同じく、通常はマンション管理組合総会での2分の1以上、規約変更が必要なら3分の2以上の賛成で決定できます。
マンションの耐震診断と補強にかかる費用
マンションの耐震診断にかかる延床面積1平方メートルあたりの費用は、鉄筋コンクリート造で500円~2,000円、鉄骨造なら1,700円~2,400円です。マンションの延床面積が共有部分も含めて1戸70平方メートル、総戸数100戸、合計7,000平方メートルなら、350万円から1,680万円かかります。
耐震補強・改修工事の費用はマンションごとに異なり一概に算出できませんが、東京都の「マンション実態調査結果」では、最低が1979年築・32戸で122万円、最高が1977年築・148戸で1億6,000万円となっています。
マンションの築年数・戸数と耐震補強費用に相関がないため正確な金額は耐震診断を行わなければわかりませんが、約50%のマンションは500万円から5,000万円の範囲に収まります。
参考:マンション実態調査結果|東京都都市整備局
https://www.mansion-tokyo.metro.tokyo.lg.jp/pdf/03jittai-chousa/03jittai-chousa-00.pdf
耐震診断を行わないマンションが多い理由
では、耐震診断が必要なのに実施しないマンションが多い理由は何でしょうか?第一に費用が挙げられます。上記のように耐震診断・補強には数千万円から数億円の費用が必要で、管理費や修繕積立金が不足している場合があるのです。
次に、「耐震診断を行ってマンションの耐震性不足が発覚し、安全性と資産価値が下がるのが怖い」ことがあります。耐震診断しなければ、耐震性不足という事実も存在しないわけです。「病気が見つかるのが怖いから病院に行かない」という心理に似ていますね。
そして第三に挙げられるのが、管理組合の怠慢です。管理組合役員が輪番制で決まり、総会の出席率も低いマンションは、主体的にマンション運営に参画する意欲が低いと考えられます。耐震診断と共に、住民がマンションの価値を高めようとする意識改革が必要でしょう。
安心して生活するためにマンションの耐震診断を行おう
費用や意思決定の問題があり、マンションでの耐震診断と耐震補強・改修工事はなかなか実施されないのが現実です。しかし、仮に大地震が起きてマンションに被害が及べば、資産が失われるだけではなく、住民や周辺の人々の命にもかかわります。
見て見ぬふりをして耐震診断を先送りすれば、万が一の際に後悔することになります。安心してマンションに住み続けるためにも、早めに耐震診断を行いましょう。